原作設定(補完)

□その31
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#310

作成:2017/10/13




土方はイライラしながら屯所の廊下を歩いていた。

内にも外にも困り事だらけの土方だったが、現在の悩みはプライベートのこと。

つい先程自室で恋人に電話をかけてからずっとこの様子だった。

今月の非番を知らせた土方に対し、今までなら「休みが少ない」だのぶーぶー文句を言っていたのに、

「ま、どうせ当日にならないと分からないんだろ」

と呆れたような声で返された。

そんなことを言わせているのは、仕事でドタキャンの多い自分のせいだというのは分かっている。

だけど以前ならそれも許してくれてたし、「会えない時間が長いからこそ燃えるよね」なんて言って笑っていた。

なのに最近は向こうから連絡も減り、会えなくなったことも残念がらない。

『もう諦められたかな』

『仕事をしてる俺の邪魔にはなりたくねーって嘘かコラァ』

そんな風に反省と逆ギレを繰り返してイライラを募らせているのだ。

そんな自分が嫌で、何かに集中していないと余計なことを考えてしまうと、道場へ稽古に向かう途中で悪寒がする声が聞こえてきた。

「じゃあコイツは、好きなら好きなほど強く欲情しちまうっていう薬なわけかぃ」

「そうです。天人製のそうとう強い薬草を使ってるって話です」

「なんか後遺症的なモンは?」

「あ、それはないそーです。発散させたらそれっきりって感じで」

「…わかった。調査どーもな」

「ちょ、ちょっと、沖田隊長!その薬どうするんですか!押収品は全部提出してもらわないと……」

「面白いから土方のやローに飲ませるんでぃ」

「ええええぇぇぇぇ!? ちょっと待ってくださいよ!バレたら俺が怒られ……」

「バレなきゃいいんでぃ」

「じゃあ、もう諦めろ」

食堂の入り口でコソコソと会話しているところへ土方が怒りを露に口を挟むと、沖田は忌々しそうに舌打ちし、山崎はホッとしたような顔をした。

土方は沖田の手から小さな小瓶を取り上げ懐へしまう。

「これは没収だ」

「え、副長、それは俺が預かり……」

「いい。また総悟に悪巧みされてたまるか」

それから土方は今歩いてきた廊下を引き返して自室に戻った。

稽古でイライラを忘れてしまうよりも、イライラを納める手段を手にいれたから。

沖田から奪った小瓶を懐から出してじっと見つめる。

“好きなら好きなほど欲情してしまう媚薬”

この薬を飲ませたら、自分をどれだけ想っていてくれているか確認できる。

馬鹿げた手段だと、後からなら思うことができるのに、今の土方にはそれが最後の手段に思えた。

こんなことをしようとしている自分の浅はかさも、見苦しさも、一人の男を取り戻すために見ないふりをした。


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