原作設定(補完)
□その31
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#309
作成:2017/10/12
10月10日の万事屋。
昼間は新八と神楽主催で誕生日パーチーなるものを催してもらい、恥ずかしいながらもチヤホヤされて良い気分だった銀時は、落ち着かない気分でソファに座っていた。
夜になって急に現れた土方が、同じように落ち着かない様子で目の前に座っているからだ。
私服姿で何やら重たそうな荷物を持って、わざわざ万事屋までやってきた土方。
顔を合わせれば喧嘩ばかりしていた土方が気になりはじめて、それが“恋心”だと気づいたときには絶望しか見えない未来に苦悩した。
が、そういう気持ちで改めて土方に会ってみたら、なにか違和感を感じた。
嫌われているから喧嘩になっているのだと思っていたのだが、もしかしたら……。
そんな浮わついた気持ちでいるところへの、“誕生日に自宅訪問”なんて意識しないわけがない。
『も、もしかして誕生日を祝ってくれるために来たのかな? そんな仲じゃないのにわざわざ来てくれたってことは、そんな仲になってくれるつもりってこと!?』
喧嘩になると分かっているのに銀時と遭遇する確率の高い場所にいつも現れる理由。
喧嘩になると分かっているのに銀時に話しかけてくる理由。
それが銀時と同じなら、今日の日をきっかけに進展する気になってくれたのかもしれない。
銀時がそんなことを考えてもじもじしている間に、土方は紙袋の中から大きな箱を取り出した。
開ける前から甘い香りのするその箱には、大きなホールケーキが収められている。
昼間にもケーキをたんまり食べたあとだったが、それよりも高級な匂いがしていた。
「……どんなヤツが好きなのか分からなかったから……適当に……一番大きいのを買ってみた……」
わざわざ買ってきてくれたのだと言われ、銀時の心臓はきゅんと締め付けられたが、
「それと、旨いかどうかも分からないから……これを使ってくれ」
万事解決というドヤ顔で例の黄色いやつを業務用サイズで出されて、ちょっと落ち着いた。
“はぁぁぁ!?ケーキにマヨとかどんな変態ですか!まったくもって余計なお世話ですぅぅぅ”
と言いたくなるのをグッと我慢する。
怒らせてしまったら台無しだ。
「あ、ありがとう。つーか……俺が……誕生日だから?」
素直になるのは気恥ずかしかったが思いきってそう聞いてみたら、土方は赤くなりながらツン顔で言い訳してきた。
「し、仕方ねーだろっ! 誕生日なのに誰も祝ってくれねー寂しいヤツには優しくしてやらーねと!」
「…へ?」
「お前はこのへんで顔が利くみてーなのに、誕生日に一人なんて案外慕われてねーんだな。あ、それとも誕生日だって誰にも言ってねーのか?」
矢継ぎ早に話す土方だったが、銀時がきょとんとしているのに気がついたようだ。
「どうした?」
「えっと……誕生日だろ? みんな知ってるし、新八たちになら昼間祝って貰ったけど……」
「………見栄を張ってるのか?」
「んなもん張ってどうすんですか」
「じゃあ……本当のことか?」
「そうだけど……土方? いったい何の話をして……」
どうも話の噛み合っていない現状をどうにかしたかったのだが、銀時が改めて話を切り出す前に、土方が急に立ち上がった。
「か、帰るっ!」
「ええ!? ちょっ、急になんですかっ!?」
部屋を飛び出そうとする土方の腕を、慌てて銀時がつかんで引き留める。
振りほどいて逃げ出そうとする土方の顔は真っ赤っかだった。
「土方?」
「ちょ、ちょっと勘違いしただけだから気にすんな!忘れろ!」
「勘違い? ……誰にも祝って貰ってないってことか?」
「そ、総悟がそう言ったんだよ! だから、俺は……」
なるほど、と銀時は納得する。
どうやら沖田に根拠のない煽りを受けて、土方はケーキを買って万事屋に乗り込んで来てくれたらしい。
なんのきっかけもなく土方が誕生日を祝いに来てくれるはずがないと自分でも分かっていた。
納得はするが、問題はそこじゃなかった。
「なんで来たの?」
「あ? だ、だから総悟が……」
「沖田くんに“俺が誰にも誕生日を祝って貰えない”って聞いたからって、なんで土方が祝いに来てくれるの?」
「……っ……」
なんとも思っていないのなら「関係ない」で済んだ話だ。
なのに、きっと悩んで悩んで、放っておけなくて、ケーキまで買って来てくれた。
誰も居ないなら自分が祝ってやろうと、訪ねて来てくれた。
「土方?」
「そ、それは……」
ずっと言えなかったことを言えるチャンスは今しかない。
お互いに。
掴んだままの土方の腕が熱くなってきた。
その熱すらも土方のからの嬉しい贈り物のように思えて、銀時は嬉しそうに笑う。
「土方、俺さ……」
はぴば、銀さん!
おわり
なんとなく思い付きで書き始めたのでオチが決まらなかったぁ。
悩んで悩んで、こんな展開に………ん?いつもと同じか?(笑)
もう展開からしてイチャイチャできるまでに時間のかかる二人ですね。