原作設定(補完)

□その31
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#305

作成:2017/10/01




真選組屯所。

土方十四郎は書類整理の手を休め、煙草を吸いながらふと視線を向けたカレンダーを見て小さくため息をつく。

どうにかできないかと調整してはいたのだが、やっぱり無理そうだ。

10月10日。

記念日好きの恋人のために土方なりに努力はした。

努力をしているのを知っているからダメだったとして許してくれる銀時に、だからこそよけいに申し訳なく思えてしまう。

『……仕方ねーよな……でかいケーキでも買ってやるか……』

そんなことを考えていたら腹が減っていることに気づいて時計を見る。

夕方も過ぎて部屋も暗くはり始めていた。

『もうこんな時間か……晩飯食ってから続きをやるか』

立ち上がって食堂に行き、定食にぶりぶりっとマヨを特盛にして掻き込むようにして胃に流し込む。

“もっとゆっくり食え”と言ううるさい上司や部下や恋人が居ないので、時間がもったいないとばかりに食事をしていたら、近くの隊士たちの会話が耳に入ってきた。

「お前、明日誕生日だろ?奢ってやるから飲みに行かねーか」

「悪ぃ、俺は明日は……へへへ」

「なんだよ、にやにやして」

「それがさぁ、彼女が手料理を振る舞ってくれるっていうんだよなぁ」

「……へえ」

「あんまり料理の上手い子じゃないんだけどさぁ、俺のために頑張ってくれるっていうからさぁ、やっぱそれって嬉しいじゃん」

「そうかよ、じゃあ楽しんでこいや」

「でへへへ」

同僚の嫌みも通じないぐらい有頂天な隊士の言葉に、土方はちょっと心が動かされる。

『手料理……そんなに嬉しいものか?』

そしてそんなことを考えてしまった自分に、慌ててツッコミを入れた。

『アホか、無理だろ。料理なんてやったことねーし……料理ならアイツがうめーんだから下手なもん作ったって迷惑だろ』

そう言い聞かせて残りのご飯を食べ終えて部屋に戻ったが、頭の中ではもやもやとさっきのことを考えてしまう。

『手料理か。練習すればなんとか………いやいやいやいや、だから無理だって。練習する場所も時間もねーし。ケーキのほうが確実だって、うん、そのほうが良い』

何度も自分に繰り返し言い聞かせて無理矢理仕事に没頭する土方だった。




10月10日。

お昼を前に土方は時計を見て考える。

『少し時間ができたな……ケーキ買って届けて、顔を見るぐらいならできるか』

誰かに頼んで届けさせようかと思っていたが、少し時間が空いたので自分でやることができそうだ。

急いで着替えて私服で町に出ると、どの店のケーキが良いかと考えながら歩いていたら、前方から見慣れた姿を発見する。

「あ、こんにちは。土方さん」

「……おう」

新八と神楽が両手に食料のつまった袋を持って挨拶をしてきた。

豪勢な買い物の仕方だが貧乏な万事屋にそんな余裕があるはずもなく、きっと別にスポンサーがいて、そしてそれは今日の日のため。

「アイツの誕生会か?」

「はい。お登勢さんが珍しくお金出してくれたんで、今回は豪華にできそうです」

「きっと家賃を払ったからアル。良いことはしておくものネ」

「いや、家賃は普通に払うものだからね」

嬉しそうな顔をする二人に、土方は少し表情を曇らせる。

銀時の誕生日をみんなで祝う、その中に自分が居れないことを。

そして土方がそう思っている理由を知っている新八は、少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべた。



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