学園設定(補完)
□同級生−その3
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#56
作成:2017/10/08
10月10日。
坂田銀時は黒板に書かれた日付を見たあと、つまらなそうな顔で窓の外に視線を向ける。
今日は15回目の誕生日だったが、それを祝ってくれる者はまだいない。
この学校に入学してから、それを誰にも言ってないのだから仕方なかったが、それを教えたくなるような気の合うヤツが居ないのだ。
ずっと仲の良かった友人たちと進学先が分かれてしまったのを心底後悔している。
『受験当日に風邪なんかひくからだ、ばーか』
そう言われたことを思い出し深い溜め息をついたとき、机がコトンと小さな音を立てた。
見るとそこには銀時の好きな購買の自動販売機で売っている、いちご牛乳の紙パックが置かれている。
さらに目を上げるとそこにはクラスメイトの土方十四郎が立っていた。
もう一度いちご牛乳を見てから、銀時は眉間にシワを寄せて土方を見る。
あまり口をきいたこともなく、お使いを頼んだわけでもない。
「……なに?」
「やる」
「あ?」
「間違って買っちまったんだよ。お前、よくそれ飲んでたろ。だからやる」
素っ気無い表情と口調でそう言われ、ますます意味が分からなくなる。
そんな理由で仲が良いわけでもない自分にいちご牛乳を奢ってくれるなんて。
「……どういう風の吹き回しですか」
「そんな大袈裟な意味はねーよ。いらねーなら捨てるだけだし」
土方は置いたいちご牛乳に手を伸ばしてきたので、銀時はそれを慌てて奪い取る。
「ばっ……もったいねーことしてんなっ……も、貰ってやるよ、仕方ねーな」
銀時がそう言うと、土方はきょとんとした後に笑った。
「始めッから素直に受けとれ、バーカ」
そしていつも一緒にいる友達のところへ歩いて行く。
親しくもないのに“バカ”と言われても腹が立たなかったのは、きっとあの笑顔のせいだろう。
銀時はなんだかほんわかとした気持ちでいちご牛乳にストローを射し、
『……なんか変なものが入ってるのか?……なーんて、漫画じゃあるめーし』
なんて考えながらずずーっと吸い込む。
甘いいちご牛乳のおかげでさっきまでの悪い気分が晴れた。
ふと、
『誕生日のプレゼント……ってことはねーよな。誰にも言ってねーんだし』
同じクラスになって半年が経つが土方と口をきいたことは数回しかない。
だけど最初のことは覚えている。
入学早々落とした生徒手帳を届けてくれた。
銀時の目立つ髪をじろじろ見られ、
「なんだよ、銀髪がめずらしーかよ」
「めずらしいに決まってんだろ」
「ですよねー」
めずらしがられるのは慣れているし、そのせいで避けられることも多い。
だから髪のことになると銀時の態度はすこぶる悪かったが、土方は気にした様子もなく、
「でもキレイだな」
そう言って、だけどそんなことを言ってしまった自分に照れてすぐにそっぽを向いてしまった。
始めてそんなことを言われた銀時は、それから少し土方のことが気になっていたのだが、仲良くなるまで頑張る気力はない。
同じ中学から来たらしい友達との間に割って入る気もなかった。
『……そういや生徒手帳には誕生日書いてあったな……でもな、まさかな……』
まあいいかといちご牛乳を飲んでいると、後ろのほうで話す声が聞こえてくる。
「あれ、トシ、さっき買ったいちご牛乳はどうしたんだ」
「え」
「めずらしく甘いのが飲みたいなんて言ってたのに、やっぱりいつもの買い直したのか?」
「そ、それは……」
銀時は声のしたほうに視線を向けた。
教室の扉の近くで土方が困った様子で友達と話しているところで、銀時と目が合うと慌てて扉の前から移動してしまう。
改めて銀時はいちご牛乳を見た。
銀時の思い違いなどではなく、どうやら本当に誕生日のプレゼントのつもりらしい。
『……素直じゃねーのはどっちだっつーの、バーカ』
そう思いながら銀時の顔はほころんだ。
それから今度こそちゃんと話しかけてみようかと思うのだった。
おわり
ものごっさベタだねぇ。
今時少女漫画でもこんな展開使わないよねぇ。
……という声が聞こえてきそうな話でした(笑)