学園設定(補完)

□逆3Z−その3
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本人がホストになりたいと思うのをこれ以上反対するのは野暮かもしれないが、これから進路を決める三者面談などもあるだろうし、担任教師や親のことが頭に浮かんでしまった。

「……お前のバイト先がちゃんとしてるのは分かったけど……親には反対されるんじゃないか?」

「それも大丈夫。親は居ないから」

「……そうか……一人で暮らしてんのか?」

「ううん。おと……男前で優すぃ〜お兄様と二人暮らし」

思いがけない家庭の事情だったが、坂田がまったく気にしたふうじゃなかったので、それなりに楽しく暮らしているような気がした。

だったらバイトしてるのも就職するのも、弟の面倒をみてくれている兄のためなのだろうか。

それは自分が選ばなかった道だったと、土方は考える。

親を早くに亡くし年の離れた兄夫婦に育てられ、教師になりたいという夢のために兄の言葉に甘えて進学した自分。

こんな自分が坂田の進路に口出ししてもいいのだろうかと、苦労の色を見せない坂田を見つめながら思った。




その頃、3年校舎の食堂。

先にテーブルで昼食をとっていた高杉と桂に、騒がしい声がかけられた。

「なんじゃあ、金時は今日も居ないがか?」

別のクラスの坂本が同席するためにやってきて、今日も姿のない友人のことを訊ねる。

「愛しの土方先生のところだろ」

「飽きもせずによぅ続くのう」

「ミイラ取りがミイラになってるんじゃないのか」

「そりゃウケる、はは……」

「誰が、誰のところだって?」

笑おうとした高杉の背後に、体から怒気を漂わせた銀髪の坂田が立っていた。




同情とは違う感じの物憂げな視線を向ける土方に、坂田の胸は少しほっこりする。

家庭の事情を話すと誰でも分かりやすい同情はしてくれるけれど、土方が向けてくれる何かが温かくしてくれている気がした。

その時、制服のポケットに入れた携帯が鳴り、

“バレたwwwwww”

高杉からのそんなメールにようやくかと笑いながらも、寂しさも感じていた。

携帯を閉じると、坂田は土方の近くまで歩み寄る。

「先生、これからたくさんの生徒と接していかなきゃいけないんだから、そんな簡単に同情しちゃダメだよ」

教師として生徒には平等でなければならない。

分かっていても初めて親しく接した生徒にそんなことを言われて、土方は恥ずかしくなりながらも余計なお世話だという気持ちでイラッとしてしまい、

「…そんなわけじゃ……」

顔を背けようとした土方の腕を掴んだ坂田が身体を寄せてくる。

「じゃないと生徒が勘違いしちゃうでしょ」

そしてそう囁くと、優しくぎゅーっと抱き締められた。

「…さ…」

突然の抱擁にその意味を計りかねて戸惑う土方だったので、部屋に近付いてくる足音に気付かなかった。

ドアが乱暴に開いてそこに立っていたのは、

「金時ぃぃぃぃ!!!てめー何やって……」

怒った顔の銀髪の坂田で、土方も驚いたが銀髪の坂田も驚いている。

肩を震わせながら土方を抱き締めている男に向かって怒鳴りつけた。

「何やってんだぁぁぁぁぁ!!!!」

「ぶはははははっ!!」

駆け寄ってきた銀髪の坂田に引き剥がされて、金髪の坂田は我慢できずに笑い出す。

爆笑の金髪の坂田と、二人を見比べて呆然としている土方を見て、銀髪の坂田はすべてを察した。

土方は二人が別人だと気付いていなかったのだろう。

「せ、先生? ごめん、バカ兄貴が騙して……」

「騙してませんんん。俺は銀時じゃないって言わなかっただけですぅぅぅ」

「それが騙したってことだろうがっ!!」

二人がそれぞれに話しているのを見て、ようやく土方も事態に気が付いた。

思い起こせば確かに金時は、銀時じゃないと否定もしなかったが嘘も言っていない。

自分の中で勝手に解釈して、本当に銀時が金髪にしたんだと思い込んでしまっただけのこと。

「……双子?」

「そうでぇす。男前で優すぃ〜お兄様の坂田金時。よろしくね、土方せんせ」

悪びれた様子もなく自己紹介する金時に、銀時のほうが不機嫌そうに吐き捨てる。

「何が男前だよ。おんなじ顔してるくせに」

「バッカだなぁ、お前。内面の男前さがあってこその顔だろ。その証拠に俺は女の子にモテモテだけど、お前は全然モテないだろうが」

「……ぐっ……」

事実らしく銀時が反論できないでいる間に、金時は改めて土方に謝った。

「ごめんなさい。騙すつもりはなかったんだけど、奥手で気に入った子と仲良くしたいって言えない愚弟のために一肌脱ぎたくなったんだよね」

謝る、ようにみせかけて、銀時を焦らすようなことを言ってくれる金時。

「な、なな、何言ってんだコノヤロォォォ!!」

慌てて叫ぶ銀時だったが、顔が真っ赤で肯定したも同然だった。



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