学園設定(補完)
□逆3Z−その3
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数学教化室は喫煙可能=生徒が出入りできない部屋なので、隣の準備室へと運んでもらった。
「よいっしょっと」
「ありがとうな」
「いいえ、どーいたしまして」
坂田はこれぐらいなんでもないという顔で笑う。
これが女教師だったら力仕事をしてもらって感謝すべきことだが、ずっと剣道をやっていて力には自信がある土方としては苦笑いだ。
この部屋は生徒が授業で分からないことを質問したりするためのものだが小さな冷蔵庫が備え付けてあり、土方は扉を開けながら聞いた。
「何か飲むか?」
「ええっ、冷蔵庫なんかついてんの!?」
「……準備室には全部ついてるって聞いてるけど……」
「あー、俺来たことないからなぁ」
勉強には興味ない的な口振りだ。
「……何がいい?」
「じゃあ、ビール」
さらりと言われて自宅の冷蔵庫を覗いている気分になったが、当然あるわけがない。
変わりにアルコール皆無の“麦の飲み物”を出してやった。
「これでも飲んでろ」
「……麦茶じゃぁぁん。ちぇっ」
文句を言いながらも嬉しそうに麦茶を飲んでいた坂田が思い出したように、
「そういえば……ライター……使ってる?」
そう聞いてきたので、土方も礼を言わなくちゃいけないことを思い出す。
「ああ。ありがとうな」
「…やっぱり…」
「ん?」
「いやいや、気に入ってもらえて嬉しいでっす」
本当は大事にしてたものなんじゃないかとも思っていた土方だったので、坂田にそう言ってもらえてホッとした。
それから何度も考えていたことを聞いてみる。
「何かお返しさせてくれ。欲しいものあるか?」
「……そんなに嬉しかったの?」
「マニアの俺が持ってなかったんだから当然だ!」
マヨラーすぎてマヨ型グッズはついつい購入してしまう土方も、パチンコの景品にまで目が行き届かなかった。
その力説具合に、本当に嬉しかったんだと坂田は笑う。
「マニアなんだ」
「だ、だから、何か欲しいもんがあったら教えてくれ」
「んー、そうだなぁ……」
遠慮などされると逆に気が治まらないのだが、素直に考えてくれている坂田をじーっと見つめて土方は返事を待った。
あまりにも真剣に見つめられて、坂田は内心吹き出しそうになる。
全然教師らしくない土方に興味が湧いた。
「じゃあ、またせんせーに会いにここに来ていい?」
「……ここ?」
思いがけないリクエストに土方はぽかんとする。
数学準備室に会いに来ること自体は問題ないのだが、ここは1年の校舎だ。
「それは……3年生がこっちに出入りしてたらまずいだろ。またナンパだと思われるぞ」
「教室の前は通らないから大丈夫」
そうは言われても新米教師だけに勝手にそれを許可していいのか分からない土方に、3年生の坂田は事情通な情報をくれた。
「1年の校舎に出入りするための許可証があるんだよ。それ貰えれば怒られないし」
「あ、そういえばあったな……理由を書かなきゃいけないだろ」
「勉強のため、でいいよ」
「……1年の数学をか?」
「大丈夫!俺、ずっと数学赤点だから!1年からやり直したいって言えば通じる!」
エッヘンとドヤ顔で坂田は言ったが、数学教師の土方としては感心できないし悲しくもある。
土方はファイルの中から許可証を取り出しながら、
「基礎から鍛え直してやる」
使命感に燃えてそう言ったら、露骨にいやな顔をされた。
「えぇぇぇぇ、口実なのにぃぃ?」
「赤点じゃ卒業できないだろーが」
「ちぇーっ」
拗ねながらもやっぱり笑っている坂田に、何の“口実”なのかを聞きそびれる土方だった。
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