学園設定(補完)
□逆3Z−その3
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あれから数日後。
あの後あの場所に行く機会がなかったが、土方は懐に収まっているマヨ型ライターを見るたびに坂田のことを思い出していた。
『何か礼でもしねーとな……こんっなに素晴らしいものを貰ったんだから』
なんて激しく感謝している土方だったが、マヨラー以外にはそこまでの価値はないことに気付いてない様子。
今度会うことがあったら何か欲しいものがないか聞きたいと考えていた。
そんな折、先輩の数学教師に頼まれて、3年の校舎にある数学教科室に行くことになった。
ずっしり重い段ボールを受け取ったついでに坂田のことを聞いてもよかったのだが、1年生担当の新米教師が3年の生徒のことを訊ねて不思議がられるのも困る。
そそくさと退散しながら、
『こんな大きい学校じゃ、偶然会うのも難しいな』
なんて考えながら階段を降りようとしたとき、背後で聞えた声にどきりとする。
「坂田ぁ!」
「あ〜?」
都合の良い“偶然”はあったようだ。
答えた声は確かに坂田のもので、階段を降りるのを止めて逆戻りした途端、何かにぶつかった。
「いったぁぁぁぁぁっ!!」
デジャヴというか、またやっちまったというか。
重量級の段ボールを抱えたまま体当たりしてしまったらしく、慌てて謝ろうとした声が止まる。
「わ、悪いっ、だ…………??」
誰かが坂田と呼び、答えた声も確かに坂田で、打ちつけたらしい胸を押さえて痛がっている姿も顔も確かに坂田だったのだが、髪は金色だった。
始めて会ったときにも派手な銀色で驚いたのだが、それが金色に変わっていてさらに驚かされる。
食い入るように見つめる土方に、坂田のほうが困っていた。
「えーと、もしもーし?」
「あっ!悪いっ、大丈夫か?」
「いや、うん、大丈夫だけどね」
本気で心配されてこの間と同じようにへらっと笑ったので、土方もホッとしたように言った。
「何度もごめんな。それにしても……今度は金髪か?派手な奴だなぁ」
すると坂田のほうがきょとんとした顔になり、土方が『あれ?覚えてないのか?』と内心ショックを受けていたら、にいっと楽しそうに笑う。
「イメチェン? けっこう似合うだろ?」
「まあ、な」
本当にこの学校は服装等についてはあってなきが如しの校則だったので、銀髪だろうが金髪だろうが注意されることがない。
子供のころから冒険しないタイプの土方には理解しがたいことではあった。
坂田はじいっと土方を見つめたあと、
「えっと……1年?……の校舎に運ぶの?」
そう言いながら土方の手から段ボールをさりげなく奪い取る。運んでくれる気らしい。
「そうだけど……大丈夫だ、自分で運べるし」
慌てて取り返そうとしたのだが、坂田は軽い足取りで階段を降りていく。
「手伝わせてよ。せんせーと、ちゃんと話もしたかったし」
そんなことを言われたら拒絶しにくいし、嬉しくもあった。
幸い昼休みでこのまま手伝ってもらっても事業をサボらせることはないだろう、と前を歩く坂田に着いていく。
1年の校舎へ入り、教科室への廊下を歩いていたら、
「坂田っ!1年の校舎で何やってんだ!」
見知らぬ教師(まだ覚えていないだけ)が険しい顔で叫んだが、坂田はけろっとして答える。
「せんせーの手伝いですぅ」
「ん?そうか?終わったらすぐに戻れよ!また1年生の女子をナンパしてたら承知しないぞ!」
「はぁい」
全然堪えてないような声で返事をして歩きだす坂田に、土方はポツリと訊ねた。
「……ナンパしてたのか?」
「だってぇ、1年生は初々しくて可愛いんだもん。3年の女子なんて、俺がカッコ良いこと言ってのにしら〜っとした顔しちゃってさぁ」
先日会った時の男前な仕草は対ナンパ用のものだったのかと、土方は呆れる。
まあ、高校生男子としては至極真っ当なのかもしれないが、ちょっと思っていたイメージと違うなと思ったりした。
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