学園設定(補完)
□逆3Z−その3
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#55
作成:2017/10/06
「土方せんせー、昨日誕生日だったんだよね」
クラスの生徒にそう声をかけらて、土方は『……ああ、そういえば』と思い出した。
担任のクラスが3年生になるのは初めてで、進学や就職のことを考えるとGWも休んだ気がしなかったのだ。
土方が自分の誕生日を忘れていたことを、坂田はなぜか嬉しそうだった。
「だからさ、良いもん上げるよ」
そう言ってポケットをゴソゴソと漁り出したが、土方はマズイと眉を寄せる。
担任のクラスの生徒からポケットに入るようなささやかな贈り物で受け取るわけにはいかないのだ。
「はい!」
「いや、いらな……」
気持ちは嬉しいがきっぱり拒否しようとした土方だったが、坂田が差し出した手に乗った小さい物に目を奪われる。
「!!!」
思わず坂田の手ごとそれをしっかり握り締めて、食い入るようにそれを見つめた。
間違いない。
土方が愛してやまないマヨリーンマヨネーズ公認カプセルトイのシークレットマヨリーンだ。
機械自体設置台数が少なく、見かけるたびにコソコソと小銭をつぎ込んでみたのだが当たらず、ネットで転売されるのを毎日検索して待つしかなかった代物。
「こ、これは……ど、どこで……」
「近所の駄菓子屋。先生、好きなんだろ?携帯に普通のやつ付いてたもんな」
割と真面目でお堅い教師である土方が、携帯に付けたちょっと不気味なストラップが似合わなくて覚えていた。
そして思った以上にコレが好きだということも。
目をキラキラ輝かせて手に乗った人形を見つめている土方に、坂田はくすりと笑う。
「だから、先生にこれ上げる」
改めてそう言われて、土方は喉から手が出るほど欲しいものだったが、その気持ちをぐっと押さえた。
「……いや、生徒から何か貰うわけにはいかないから……」
「たかがおもちゃのストラップだよ?」
「……そういう問題じゃない」
予想通り頑固さに坂田は肩をすくめ、
「そっか。じゃあこれは捨てようっと」
「な、なんでだ!!」
「……だって、俺はいらないし」
全く興味がないという顔でそう言うので、土方はぐっと言葉に詰まる。
確かに一般受けするような物じゃないし、いらなければ捨てるのも持ち主の権利だ。
分かっていても嫌なのだろう。
土方が悔しそうな顔をしているので、坂田は内心で吹き出しながら提案してみた。
「じゃあさ、俺はこれをそこのゴミ箱に捨てるから、先生が拾えばいいんじゃね?」
そうすればプレゼントしたことにならないと、坂田なりに考えた名案だったのだが、土方にはそれは人としてどうかと思える。
生徒が自分のために用意してくれたものをゴミ箱に捨てさせる。
そんなことできるわけがない。
「……分かった……貰う……」
少し悔しそうにそう言った土方に、坂田は嬉しそうに笑ってストラップを土方の手に乗せた。
いらないと言ったのも本心ではあるが、やっぱりずっと欲しかったものが手に入ったのは嬉しい。
だが、感動している土方に、
「あ、ちなみに俺の誕生日は10月10日だから」
そう言い残して坂田は軽い足取りで立ち去ってしまった。
「……え……」
残された土方はその意味を考えると、手の中のマヨリーンがズシッと重くなったような気がした。
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