学園設定(補完)
□逆3Z−その3
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「この学校、煙草にうるさいもんね〜。先生なのに理不尽だよね」
溜め息混じりにそう言われて、まったくだと思いながら土方は煙草を一本取り出し口に咥えて………パタパタと数箇所あるポケットに手を当て、とてつもないショックを受けた。
『しまったぁぁぁ!ライター忘れたぁぁぁ!!』
この場所へ行ってみようと慌てて出てきたので持ってくるのを忘れてしまったらしい。
せっかく来たのに、生徒にまで気を使ってもらったのに、と段々悲しくなってきた。
するとそれを見ていた坂田が、
「……ライターないの?」
そう聞かれ、さきほどの行動を見れば明らかにバレバレだったこともあり、素直に頷くしかない。
「…そうみてーだ…」
「俺、持ってるよ」
がっかりする土方に、あっさり言う坂田。
一瞬喜んでしまったが、すぐに教師モードに戻した。生徒がそんなナチュラルにライターを持ってていいはずがない。
「なんでんなもん持ってんだ」
「えー、聞く?それ。先生だって持ってたでしょー、高校生のとき」
からかうようにそう言われ、もちろん持っていたので反論はしなかった。自分のことを棚に上げて説教はしたくない。
ポケットを探って見つけたものを、坂田は「はい」と手渡してくれた。
手のひらに乗ったソレを見た瞬間、土方の胸はきゅーーーんとときめく。
滑らかな曲線を描くボディを淡い黄色に染め赤いキャップを被った、マヨネーズ型のライター。触り心地もバツグンだ。
心臓をドキドキと高鳴らせながら土方は声を絞り出す。
「…こ、これ……どこで買ったんだ!?」
「それ? 買ったんじゃなくてパチンコの景品にあったんだけど」
さらっと答えられてしまったが、今度は“棚に上げる”必要がないのでチクリと言ってやったが、
「……パ、パチンコはダメだろ、さすがに……」
意識はすべて手のひらの上に集中しているので、声が弱々しい。
自他共に認める生粋のマヨラーである土方にとってこのライターは、煙草を吸えないイライラも一瞬で吹き飛ばす威力があった。
目を輝かせてマヨ型ライターを見つめる土方だったが、
「……マヨネーズ好きなの?」
坂田にそう尋ねられて、我に返る。
今度はさすがに動揺しながらも、
「そ、それほどでもねーよっ」
そう答えて煙草に火を点けるとライターは坂田に突き返し、そして動揺を落ち着かせようと煙草をスパスパとふかした。
あからさまなのに誤魔化したということは、“マヨラー”だバレるのは恥ずかしいらしい土方に、坂田は小さく笑う。
『なんか、可愛っ』
スーツを着ているから教師に分類するだけで、全然年上に見えない。
初対面なのに友達的感覚でもっと仲良くなりたいと、坂田は思ってしまった。
“そのため”に何か言おうとしたとき、校舎のほうから授業終了のベルが聞えてくる。
授業なんかどうでもいいが、これ以上サボろうとしたら土方の心象に悪いだろうと、坂田は仕方なく立ち上がった。
「じゃあね。ここ、昼休みは生徒も来るから気ぃつけたほうがいいよ」
「お、おう。ありがとうな」
恥ずかしいところを見せてしまい少し気まずかったので、坂田があっさり校舎に戻って行くから土方はホッとする。
相手は3年生で校舎も別だ、ばったり会うこともないだろうと思ったとき、
「土方せーんせっ」
背後から呼びかけられて振り返った土方に、何か弧を描いて飛んできた。
咄嗟に手を出してキャッチしたら、それはさっきのマヨネーズ型ライター。
すぐに坂田のほうを見たら、
「あげる」
にいっと楽しそうに笑ってそう言われた。
「えっ…だけどっ…」
「良い。そのかわりソレとアレは内緒にしといてね〜」
そして手をひらひらと振りながら校舎へ戻って行く。
ソレ=ライター、アレ=パチンコ、なのだろうが、元より誰にかに報告するつもりなんか無かった。
マヨラーなことをあれ以上追求することなく、さらにはプレゼントまでして立ち去るなかなか男前な高校生に、
『俺が高校生のときはあんなんじゃなかったよな……怖っ』
と思いながら土方から笑みがこぼれた。
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