学園設定(補完)

□逆3Z−その3
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それからの数日間、坂田は予想していたよりもハードなバイトにお疲れだった。

「銀兄ちゃん!もう一試合しようぜ!」

元気良く声をかけてくる子供に、道場の隅でへばっていた坂田は弱々しい声で答えてやる。

「…………銀兄ちゃん、疲れてます。もう高校生だから、小学生のお前らと体力が違うんですよ。分かったらお前らだけで練習しなさい」

時間が空くと次から次へと試合を申し込んでくる元気な小学生たちを相手に、ずっと竹刀を振りっぱなしだった。

こんなに竹刀を握っていたのは子供のころ以来だな、と思うと少しだけ気分が良いのも確かだったが。

「えぇぇぇ、銀兄ちゃん、やろうよぉ」

「ねー、ねー」

しつこく食い下がっている子供たちに、土方が助け舟を出してやる。

「“まだ”高校生だろうが、子供たち相手にへばるのは早いぞ」

正直、坂田が子供たちと稽古をしてくれていると助かるし、坂田が内心楽しいんじゃないかと思うのも嬉しかったのだ。

そんな土方の気持ちを“半分”だけ察した坂田は、溜め息を付きながら立ち上がる。

「そうですね。中年目前の先生たちよりは俺のほうが若いですもんね。じゃあ、もっと頑張ります」

「なっ……」

このあいだ“名前呼び”でからかった仕返しだろうか。

三十路前の近藤と土方には反論の余地はなく、ちょっと気が済んだのか坂田は機嫌良く子供たちに稽古をつけていた。

「あ、あのやろう」

「はははっ、まあ、銀時が頑張ってくれてて実際に助かってるけどな。若いってのはいいなぁ」

その言い方がすでに中年臭い近藤が、気にかかっていたことを土方に尋ねる。

「銀時さえ良ければまたバイトに来て欲しいんだけど、どうだろうな?」

「…………どう、かな」

今回はバイトの内容も知らなかったし、自分で竹刀を握ることになるなんて思っていなかったから引き受けてくれたはずだ。

約束だから最後まで居てくれているが、“本当は剣道なんてやりたくない”という態度なので、次も来てもらうのは難しそうだ。

土方から見れば楽しそうに竹刀を握っているように見えるのだが、それを言ってしまうのは逆効果だろう。

どう言って唆せば坂田に剣道を続けされることができるだろうか、土方は必死に考えてみた。




合宿の最終日、指導はなくてほとんどが試合形式の手合わせで終わった。

その中でも一番人気はやっぱり坂田で、最終日のせいか文句も言わず相手をしてくれている。

「なぁ、銀兄ちゃん、また来いよ!」

「無理、銀兄ちゃん忙しいから」

「なんでだよ。どうせ彼女居ないんだろぉ、暇そうじゃん」

「き、決め付けてんじゃねーよ。だけどね、世の中にはもっと大切なものがあると思うんだよ、僕は」

「何だよ〜」

「…………金とか」

「金かよ」

「うるせぇぇぇ!とにかく俺は暇じゃねーの!」

子供たちが上手く説得してくれないかと期待して聞き耳を立てていた土方は、“やっぱり無理か”と内心で溜め息をつく。

元々坂田をこの合宿のバイトに誘ったのだって金が必要だからだ。

このあとも校則に触れないように、知人のところでバイトできるように紹介もしている。


生意気盛りの可愛い子供たちの誘いにも乗らないのだから、自分が何を言っても無理なような気がしてきた。

まあ、チャンスは今日だけじゃなく、夏休みが終わって学校ででも勧誘はできる。

一息ついて顔を洗いに道場の外に出た坂田をおいかけて、土方はともかく今回の礼だけは言っておこうと思った。

「銀時」

「………」

問題は、からかって以来、少し避けられている気がすること。

名前を呼んだのに返事をしない坂田に、強引に頭を撫でて礼を言ったのだが、

「今回は本当にありがとうな。お前が頑張ってくれて俺も……」

「触んなよっ!」

そう言われて撫でた腕を払われた。

からかいすぎて怒らせてしまったかと本来なら反省するところだが、どうも坂田の様子がおかしい。

顔を真っ赤にして情けない表情をしている。

「……銀時?」

「優しくすんなよ!じゃないと俺……俺……惚れてまうやろぉぉぉぉ!」

だいぶ前に流行った芸人のネタが飛び出してきて、土方は戸惑いながら首を傾げた。

「…………ギャグ?」

「違うわぁぁぁ!!まじで!俺、ダメなんだよ!顔が綺麗で性格が偉そうな年上の人に弱いんだよ!たまに見せる優しさとか笑顔とか、ギャップ萌え?」

「…………先生、男だぞ?」

「関係ないんだもん。恋はいつでもハリケーンなんだもん」

そう言いつつも、ぶっちゃけてしまったことに坂田ががっくりと項垂れる。

どうやら“惚れてしまう”要因を並べてくれたようだが、男にそんなことを言われてもいまいち嬉しくない。

容姿を褒められることは不本意ながら多々あったのだが、受け持ちの生徒にそんなことを言われてしまったらどう反応していいのだろうか。

しかも坂田の叫びは割と本気そうだったので、ここは速やかにお断りしなければと思ったとき、閃いた。


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