学園設定(補完)
□逆3Z−その3
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#49
作成:2017/08/19
土方十四郎は職員室の自分の机に答案用紙の束を置いて、椅子に座ると深く息をつく。
夏休み前の期末試験は、担当の数学が初日の一時間目だったので、終わったと思うと気分が楽になる。
とは言っても、自分のクラスの生徒が3年生で、受験にしろ就職にしろ、期末の結果によっては夏休みの過ごし方が変わると思うと気を抜いていられない。
二時間目は空き時間になったので、採点も早めに済ませてしまおうとすぐに机に向かった。
3年生という自覚が出てきたのか、生徒たちが真面目に勉強していたのを知っている。
その成果が出ている答案用紙を見ながら嬉しく思っていた土方だったが、次に手にした用紙を見て眉間にシワをよせた。
計算式は適当、回答はいい加減、ところどころ真っ白。
そして名前欄を見て更に眉間のシワを深くした。
期末試験一日目、昼前に終わって早速、相談室に呼び出された坂田銀時は不機嫌そうな顔をしていた。
試験中は職員室も教科室も生徒は入室禁止なので、テーブルと椅子だけの素っ気無い部屋に土方と二人きりで対面している。
「どういうことだ、これは」
「……」
返事をしない坂田に土方は深いため息をつく。
普段はこんな反抗的な態度を取る生徒ではなく、むしろ好かれているほうだった。
2年で担任になってからあからさまな態度でまとわりつかれ、無視しても怒っても全然懲りないので、近頃は土方のほうが諦めてしまったぐらいだ。
坂田はあまり成績が良いほうではなかったが、土方の薦めで進学を決めた以上、赤点など取っている場合じゃない。
昨日まではやる気満々だったはずなのに、なぜ今日になって減速どころか急降下してしまったのか。
「期末試験は頑張るんじゃなかったのか?」
そう言い出したのは坂田のほうから。
やる気を出すために“期末で80点以上取ったらお願いを聞いて欲しい”という提案をしてきた坂田に、嫌な予感はしつつも“やる気が出るならいいか”と提案を呑んでやった。
なのに結果がこれだ。
何をお願いするつもりだったのか知らないが、急にソレがどうでもよくなってしまったのかと思うと、提案を呑んだ自分が情けなくなる。
もう一度深くため息をついた土方に、坂田がようやく口を開く。
「……だって、お願い、聞いてもらえないし」
「あ? だから80点以上とったら聞いてはやるって言っただろ」
「無理だもん」
子供みたいにふてくされる坂田に、土方はイラッとしながら首を捻る。
無茶なお願いだったら確かに聞く気はなかったのだが、まだお願いがなんなのかすら聞いていない。
「聞かなきゃ分からんだろーが」
「昨日、“嫌だ”って言ってた」
「……何が」
心当たりがなくて問いかける土方に、坂田はこぶしを握り締めて叫んだ。
「昨日、クラスの女子に“夏休みにプールに行こう”って誘われて、“絶対に嫌だ”って断ってただろうがぁぁぁぁ!!」
確かに言った。
生徒と、しかも女子生徒たちとプールになんて行けるはずもない。
「……だからなんだ……」
「夏休みには先生とプールに行ってキャッキャウフフするのが夢だったのにぃぃぃぃ!!!」
くだらないことを力説する坂田の脳天に拳骨を振り下ろす。
「くだらねぇことで大事な試験を台無しにするんじゃねぇぇぇぇ!!!」
「くだらなくありませんんんん!!高校生活最後の夏休みだって大事ですぅぅぅ!!」
今まで見たいことがないぐらい真剣な顔をしている坂田に、土方はがっくりとうな垂れた。
もしかして何かあったのかと、少しでも心配してしまった自分が悲しい。
だが坂田のほうは気が済んだのか、すぐに切り替えて次の提案をしてきた。
「じゃあじゃあ、追試で80点以上取れたらプール行ってくれる?」
わくわくした顔でそう言う坂田に、“ふざけるな”と怒るという手もあった。
だが、そんな“くだらない”ことでやる気を出せるバカなところが、可愛いと思えなくもない。
あくまでも“生徒として”だが。
「……90点以上だ、ばか」
「まじでか!!」
パーッと明るい顔で坂田が笑う。
「絶対取るから!絶対プールな!約束だぞ!!」
そう言って坂田は再びやる気満々で部屋を出て行った。
それを見送った土方は、卒業させるまでこうやって振り回されるような気がして、三度目の深いため息をつくのだった。
おわり
銀土?(笑)
銀さんが土方先生に懐いているだけで終わってしまいました。