学園設定(補完)
□逆3Z−その3
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#46
作成:2017/05/08
5月5日、土方十四郎は不機嫌だった。
連休前に突然、週明けに開かれる保護者会で使用するという資料に間違いがあったとかで、その作り直しを頼まれた。
他の先生もいるからと懇願されたのに、登校してみたら他の教師に全員休まれてしまって、一人黙々と作業をしている。
そりゃあ、家族サービスが必要な人たちと違って自由の利く独り身ではあるが、腑に落ちない虚しさがあった。
コピーと製本を繰り返していたら、校庭から生徒たちの騒がしい声が聞えてきた。
そういえば野球部の練習試合があるとか聞いたな、と思いながら作業を続けていたら、廊下側のドアが開いて、
「あれ? 土方せんせ、一人?」
自クラスの生徒が顔を出す。
「……坂田。何してんだ」
「俺?野球部でメンバーが揃わないかもしれないってんで助っ人頼まれてたんだけど、揃ったから抜けてきたとこ」
「揃わないかも?」
「GWだからねー、家族旅行とかするやつも居たみたいで」
こっちもか、と土方が小さく溜め息を付いたことで、坂田も察したらしい。
「先生も? 他の先生に逃げられちゃったとか?」
テーブルに並べられた大量の紙を見れば、とても一人分の作業じゃないというのが分かったのだろう。
それに作業を頼まれたのがホームルームの終わった廊下でだったので、話を聞いていたのかもしれない。
「……そんなとこだ」
生徒に愚痴りたくはないのでそうとだけ答えたら、坂田はひょこひょこと教室に入ってきて、
「手伝う」
なんて言い出したので、さすがに慌てた。
自クラスの生徒とはいえ、休日に自分の仕事を手伝わせるということに抵抗がある。
「あ? いや、大丈夫だぞ」
「……この量を一人でやったら、今日中に帰れなくね?」
「…う…」
やってもやっても終わらない資料作りに、そんなことになってしまうんじゃないかと思っていたところだったので、しばらく考えたあと、言葉に甘えることにした。
「……じゃあ、頼む」
「りょーかいっ」
楽しそうににっと笑った坂田に、申し訳なさが少し和らいだ気がした。
坂田は目立つ風貌とは裏腹に、割と問題の無い普通の生徒だった。
成績はあまり良くなかったが授業は真面目に出席しているし、教師としては好かれているかなと自惚れてもいる。
坂田は始終笑わせるような話ばかりしていたが、手は器用に作業を続けてくれていたため、一息ついたときには午後の1時を過ぎていた。
「あ、そういえば昼飯……」
思い出したら途端に腹が減ってきたが、当然学食も開いてないし二人分では出前も取りにくい。
コンビニでも行ってくるかと思ったとき、
「あ!俺、いいもん持ってる」
坂田がそう言って、素っ気無い紙袋から何かを取り出した。
テーブルの上に並べられたのは、おにぎりとおかずがぎっしり詰まった弁当箱。
「……どうしたんだ、これ」
「それがぁ、野球部に顔を出したときに、俺の“ファンです”って可愛い子がくれたんですぅ」
差し入れというやつだろうか。
食べ盛りの男への差し入れという感じで見た目に可愛さなどはなかったが、女子高生がこれだけのものが作れるなら及第点だと思えるぐらい美味そうだった。
「……いいのか、俺が食って」
「いっぱいあるし食ってよ」
まあいいかと差し出されたおにぎりを食べたらツナマヨで、マヨ好きの土方としては嬉しかったし、おかずにもエビマヨとかポテサラとか好物がたくさん詰まっている。
味も美味くてなかなかセンスの良い女生徒だなと感心した。
腹を満たしたあとにまた作業を続け、窓の外が赤く染まるころに全部の資料を作成することができた。
「終わったぁぁぁ」
達成感に歓喜の声を上げる坂田に、土方は本当に心底感謝してしまう。
「ありがとうな、坂田」
「どーいたしましてっ」
疲れているだろうに嬉しそうに笑うので、土方のほうもつい笑みが漏れる。
それから、時間も時間なので坂田は立ち上がり、
「そんじゃ、俺は帰んね」
そう言うので、土方は慌てて引き止めた。
「あ、送っていくぞ。もし時間があるんだったら夕飯も奢るけど」
「まじでか!」
そのぐらいは当然だなと思って提案したことに、坂田はぱーっと笑顔になる。
そしてテンション高めのまま、
「あ、その前にトイレ行ってくる!」
いそいそと廊下へ飛び出して行ったので、土方は苦笑しながら後片付けをした。
テーブルの上に資料をキレイに並べていたら、テーブルの下に坂田が貰った弁当の紙袋が置いてあったのを見つける。
弁当箱は紙製だったので捨てても帰れるが、どうするのか坂田に聞いてからにしようと手に取ろうとして袋を倒してしまい、中から一枚の紙切れがひらりと飛び出してきた。
それを拾い上げたら何か書いてあるのが目に止まる。
“土方先生、誕生日おめでとう”
その字が坂田のものだと気付いたら、いろんなことに合点がいった。
偶然この部屋に来たわけじゃなく、今日土方が登校してきて仕事をしているのを知って、誕生日のプレゼントとして弁当を作ってきてくれた。
だから弁当の中身が土方の好きなものだらけだったわけで、弁当を置いて帰るつもりが、土方が一人で作業をしているのを見かねて手伝ってしまった。
そんなところだろう。
それにどんな意味があるのかとか悩む前に、土方は嬉しい気持ちで胸がいっぱいになる。
カードはそっとポケットにしまって、礼は全部まとめて後でしてやろうと思うのだった。
はぴば、十四郎!
おわり
……あれえ?
もっとウフフは話にしたかったのに、なんか普通の話になっちゃったなぁ、おかしいなぁ(笑)
銀さんがヘタレで、土方先生のほうが無自覚でぼんやりしていると、逆3Zはちっとも色っぽい話にならないよね。