学園設定(補完)
□逆3Z−その3
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#31
作成:2016/10/09
10月10日、当日に隣に住む十四郎が俺の部屋にやってきた。
高校が変わってから、それまでのように頻繁に訪れるようなことがなくなっていたが、今日だけは絶対に来ると分かっていた。
「銀時、誕生日おめでとさん」
「…どーも…」
改めて祝われると気恥ずかしい年頃のため、素っ気なくても嬉しがっているのは長い付き合いの十四郎には分かる。
子供のころは家族ぐるみでパーティなんかもやったものだが、今は言葉とプレゼントを贈るぐらい。
いつもはお互いの好きそうなものを買って持ってくるが、今日の十四郎は手ぶらだった。
「何が欲しい?」
そんなことを聞かれたことがなかったので銀時はきょとんとしている。
「別に、なんでもいーよ」
「そうはいかねぇ!今年お前に貰ったやつ、すげぇぇぇぇぇぇぇぇ嬉しかったんだから、俺もお前がホントに欲しいもんあげたいんだよ!」
そんなに力説されるほどだったのかと、銀時は思った。
偶然町のリサイクルショップで見かけたマヨリングッズで、ウケ狙いでプレゼントしたのにものごっさ喜んでくれたが、銀時が思っていた以上に嬉しかったらしい。
銀時が同じくらい喜んでくれるものを一生懸命考えてくれたのだろうが、付き合いが薄くなっている間に銀時が本当に欲しいものが思いつかなくなっていた。
だからいっそのこと本人に聞いてしまえ、と。
「……いいよ、適当で……」
「適当じゃ嫌なんだよ!俺にできることなら何でもするから言えよ!」
そう言えば銀時も欲しいものをいろいろ考えてくれると思ったのに、ついと視線を外してしまう。
「……何でも?」
「おう!あ、すげー高いもんは無理だけどな」
「……金はかかんねーけど……」
「何だ?」
意欲満々で訊ねた十四郎を、銀時は笑みのない真剣な表情で見つめて答えた。
「…キス、したい…」
「……誰と?」
「……お前に決まってんだろ」
「ぷふっ、なんだそのじょうだ……」
十四郎は笑い飛ばそうとして、自分を見つめていた銀時の目が寂しそうに曇ったのに気付く。
すぐに伏せてしまったので一瞬だったが、咄嗟に本題から話を逸らそうとして失敗した。
「…そ、そんなの好きなヤツに言えよ」
「………だから言ってんだろーが」
そうぶっちゃけられて、俯いているから表情は見えなくても本気で言っているんだと、そう思ったら十四郎もドキドキしてくる。
銀時に好かれているのは分かっていた。
自分も照れながらそれに同意できるぐらいは好きだけれど、友達としての意味だと思っていた。
が、改めて“そういう意味”で好きだと言われて、嫌悪感を感じないということはなんとなく気付いていたのかもしれない。
ソレが本当に銀時の欲しいものなら叶えてやりたくても、さすがに初めてとなると躊躇う。
「…だ、だけど…それはさすがに……」
なんとか回避できないかと出た十四郎の言葉に、銀時は責めるような声で呟いた。
「何でも、って嘘かよ」
「う、嘘じゃねーけど……」
「じゃあ、いいよな」
顔をあげた銀時にそう言って見つめられたら、十四郎は動けなくなった。
合わせた目も逸らせず、近付いてくる銀時から逃げることもできない。
頬に銀時の指先が触れた瞬間、とっさに目を閉じてしまったが、どうしても無理だと思ったら突き飛ばしてやろうと思っていた。
だけど触れた指先が微かに震えていて、銀時の本気を不安を感じたらそれはできなかった。
それでも“逃げない”土方に銀時もしばらく躊躇ってから、ゆっくりと唇を重ねる。
初めて感じる人の唇の暖かさと柔らかさ。
時間がゆっくり流れたような気がするだけで、実際はそれほどでもなかったと思う。
体が離れてようやく目を開けた土方が、顔を真っ赤にしているのを見て銀時は笑った。
「……んだよっ」
「十四郎、可愛い」
「か、可愛いって何だぁぁ!!」
「ものごっさかぁわぁうぃうぃ〜」
「てめっ!」
ぴゅーっと逃げ出した銀時を、怒った土方が追いかける。
一瞬にしていつも通りの二人に戻った……かのように見えるが、今までとは明らかに違う二人だった。
ハピバ、銀さん!
おわり
いままで数回書いてきた“お隣さんの同級生”と繋がっているような、繋がってないような。
あの設定が好きなのでまた違う展開の話ができるかもしれないので、ふわっと読んでください。