原作設定(補完)
□その25
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家にはプラプラしてゆっくり帰れば良いかと思い、
「あ〜……じゃあ、僕、そろそろ…帰ります」
面と向かって言うのは寂しい気がしたので、銀時に背中を向けたまま土方は掃除を終わらせようとした。
銀時が何も言わないので聞えていないのかと思ったが、背後に人の気配を感じた後、後ろからぎゅっと抱き締められる。
「帰んの?泊まってけば?」
耳元でそう囁かれ胸がきゅーっと締め付けられるが、自分が今、新八の姿をしていることを思い出した。
『や、やっぱりっ!!コノヤロー、メガネにまで手ぇ出してんじゃねーかっ!!』
先ほど“可愛い”と言われたことで生じた疑いが核心に変わって、土方は無意識に手近にあった花瓶を掴む。
新八の貞操を守るためにもそれで殴り飛ばしてやろうと思ったのだが、強く抱き締められたまま身動きできないでいると、
「お妙の飯はいくらマヨかけても食えないよ、多串くん」
名前を呼ばれてそれが“自分”であること、声に笑いが含まれていることに気付いて土方は振り返る。
「てめー…」
「とりあえず、それ置こうか。凶器は反則だから」
殴られちゃかなわないと銀時は半笑いでそう言った。
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1時間前。
届け物を終えて依頼料で懐は暖かかったが、気持ちは寒々しい銀時。
「金が入るから珍しく酒でも奢ってやろうと思ったのにな。ツラだって忘れちゃいますよぉ。だから新八なんかが可愛くみえちゃったりするんだよ。みんな多串くんのせいだから」
一人ブツブツ言いながらも、土方が仕事大好きなのは理解しているので諦めようと思ったとき、公園のベンチに私服姿で座っている土方を見つけた。
仕事中だったら話かけちゃいけないのだが、疲れた顔で溜め息なんかついてるしそういう雰囲気じゃない。
周りにも誰かいる様子もないのでこっそり背後から近付き、
「多串く〜ん、何してんですかコノヤロー」
嬉しそうにそう言って抱き締めながら、久し振りの感触と匂いを堪能していたら、腕の中で硬直した土方が叫んだ。
「ぎゃああぁぁぁ!!銀さん、違いますっ、僕ですっ、新八ですぅぅ!!」
「……は?」
抱き締めている身体は間違いなく土方だったが、土方がそんな冗談を言うとも思えなかったし、心底からの叫びは聞きなれた新八のものだった。
銀時に甘い声で囁かれ抱き締められるという恐怖体験をしたため、新八は土方と中身が入れ替わっていることをあっさりと白状してしまう。
「……なるほどね」
簡単には信じがたいことではあったが、新八と土方がグルになってそんな嘘をつく必要もなかったので、銀時はとりあえず納得した。
万事屋で会った新八が可愛く見えた理由が分かっただけでも、ホッと一安心。
「んで、お前はここで何してたんだ?」
「土方さんにホテルでも泊まれって財布預かったんですけど……なんか申し訳ないかなぁって思って」
一人でホテルに泊まるなんてことをしたこともないし、もっと安くどこかで時間を潰せないかと考えていたのだ。
それを聞いた銀時が、新八の手から土方の財布を何気無く取り、中を見て目をきらりと輝かせる。
「俺も付き合おうか?遠慮するんなよ、多串くん金持ちだしっ」
銀時が何を考えているのか察した新八は、土方のお金を守らなくてはと、
「結構ですっ」
財布を奪いと取り、ぴゅーっと走って逃げて行ってしまった。
残された銀時は「ちぇっ」と残念がりながらも、“万事屋に戻って土方をからかう””、というお楽しみに笑みを浮かべるのだった。
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