原作設定(補完)

□その25
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#250

作成:2016/11/09




それは、ほんの少し気が緩んだ瞬間だった。



真選組総力での過激攘夷党検挙のためにひと月近く緊迫した状況だったのだが、こちらの被害も少なく幹部のほとんどを捕縛したという連絡があり近藤が嬉しそうに笑った。

「これでようやく落ち着いて寝れるなぁ、トシ」

「…そうだな…」

近藤ですらストーカー休業状態で頑張ってきたのだから、土方もつられて小さく笑う。

もちろん仕事はこれで終わりではなく、まだまだやることはいっぱいあるけれど、ゆっくり休んだ後に羽根を伸ばせる時間ぐらい取れる。

ずっとほったらかしにしていた“白いもふもふ”のことが頭をよぎり、いかんいかんと気を引き締めようとしたときだった。

倒産した工場跡地を隠れ家としていたため、駐車場だった広場から見渡せるようにいくつも建っていた建物の一つから突き刺さるような殺気が発せられる。

隊長クラスの者たちはすぐにそれを察し緩んだ気を一気に引き締めたのだが、殺気の矛先は近藤に向けられていた。

一番早く動けたのは、側に居た土方だ。

「近藤さん!」

そう叫んで動くのと同時に、土方の体に強い衝撃が走る。

広場に銃声音が鳴り響いたのはその後だった。

「トシっ!!!」

倒れ込むときでさえ近藤を庇うように覆いかぶさる土方の身体を近藤が受け止め、駆けつけてきた隊長たちが建物の間に立つ。

二射目を想定して壁となったのだが、それきり銃声は鳴らなかった。

すぐに狙撃者を追いかけるように指示を出したが、おそらく間に合わないだろう。

近藤を仕留め損ねたとはいえ、真選組の頭脳とも言われる副長が銃弾に倒れたのを見届けたのだろうから。

「医療班!!すぐに応急処置!副長を病院へ運べ!!」

怒声と焦りでその場が一気に慌しくなるが、近藤たちは土方の左胸の隊服が濃い黒に染まっていくのを見て息を飲むしかなかった。




けたたましいサイレンを鳴らして飛び込んできた険しい形相の男達に運ばれて、土方はすぐさま手術室へと入った。

後片付けのために隊長、隊士のほとんどが現場に残っているため、手術室の前に居たのは土方に近しい者たちだけだったが、それじゃなくても悪名高い真選組の只ならぬ様子に、病院の患者たちも緊迫感を感じて遠巻きに見ているだけだ。

後悔と自責の念に無言になる近藤たちの目に、手術室の使用中のランプが消える。

開いたドアから出てきた医者の顔を見れば、容態など聞かなくても分かった。

「先生!」

医者は首を横に振ったあと、

「残念ですが時間の問題です。すぐにご家族の方を呼ばれたほうがいいでしょう」

そう言われ、食い下がろうとする隊士を近藤が制する。

脅しても賺しても、急所を貫かれた土方の命を救うのは無理だと分かっていた。

「武州からじゃすぐというわけには……」

身内として頭に浮かんだのは疎遠な兄弟たちのことだったが、今から呼んで間に合うのかと躊躇う近藤に、隣でずっと黙っていた沖田が口を開く。

「山崎っ」

「は、はいっ」

「…旦那……万事屋の旦那に連絡」

「はいっ!」

命令されて山崎は駆け出した。

土方と銀時が恋仲になっているのを、近藤たちは暗黙で了承していた。

親友、同志、家族として、自分たちも土方を失おうとする中、銀時のことを考えるとさらに胸が痛んだ。






相変わらず暇そうな万事屋の電話が鳴り、銀時は面倒くさそうに受話器を取る。

「はいはい、万事屋銀ちゃん……」

「山崎です」

「あ?………あー、ジミー?」

一瞬本当に分からなかったというリアクションをする銀時だったが、山崎からのツッコミはなく、続く声は落ち着いてさえいた。

「大江戸病院まで来てください……旦那、できるだけ急いでください」

それを茶化すこともできず、ゾクリと全身の肌が震えた。

山崎がわざわざ銀時に連絡をしてくるなんて、何があったのかなど聞かなくとも分かる。

受話器を放り投げて銀時は部屋を飛び出した。

万事屋を出たところで帰宅した新八と神楽に会うが、

「あれ、銀さん出かけ……」

掛けられた言葉に反応もせず、銀時は愛車にまたがるとスクーターらしからぬエンジン音を響かせて走り去ってしまう。


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