原作設定(補完)
□その25
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7年後。
学校の保健室に忍び込み、身長を測る計器に背中をつけてでっぱりを頭の上にそっと添える。
そしてドキドキしながら計器から降りるとメモリを確認した。
160.5cm。
「おっしゃぁぁぁ!間に合った!」
ついつい大声を出してガッツポーズをする十四郎、15歳。
彼にはよこしまな野望があったのだ。
10月10日の銀時の誕生日までに160cmを超えていたら、“自分をプレゼント”しようと。
生まれ変わった恋人に手を出すこともできずに7年。
『そりゃキスぐらいはしたけど……それだけじゃダメだろ。アイツはずっと待っててくれてんだから……』
なんて“銀時のために”なんて言い訳をしてみても、思春期になって十四郎自身だってもやもやしてきたのである。
だけどちょっと良い雰囲気になっても銀時は何もしてこない。
子供のままじゃダメだと思って自分で決めた境界線が身長160cmだった。
誕生日に自分をプレゼントなんて恥ずかしいシチュエーションで考えるだけで赤面してしまうが、十四郎はもう一度ガッツポーズで気合いを入れた。
そして10月10日。
おっさんの誕生日なんてめでたいものでもなかったが、酒を飲んで大騒ぎできる日として恒例になっていた。
未成年は十四郎だけなので、
「ちょっとぐらい飲んでもいいじゃないのかい」
なんてお登勢に唆されて十四郎もその気になるのだが、
「ババァァァ!!ダメに決まってんだろうがぁぁぁ!!」
そう叫んだ銀時に没収されてしまう始末。
「過保護すぎね銀ちゃん。可愛い子には酒を飲ませよって言うアル」
「旅をさせよ、ですぅぅぅ。おまっ、酔ってんだろっ!今日は俺の誕生日なんだから、酒はほどほどにしとけよっ!」
銀時のために持ち寄られた酒を水のように飲む神楽の姿は、お妙に似てきたなぁと思って怖くなる新八だった。
そして酒を取り上げられた十四郎は小さく拗ねていた。
この後のことを考えると景気付けに一杯飲んでおきたい気分だったのだ。
今日は平日なので、明日の十四郎の学校のことを考えたら早めにお開きになるはず。
だが二人きりになるためにはもう一つやらなくてはいけないことがあった。
「そんじゃあ、そろそろお開きにしようかね」
お登勢がそう言いだすとみんな素直に従って後片付けを始めた。みんな十四郎のためになら聞き分けが良いのである。
すかさず十四郎が言った。
「銀時、片付けてる間に風呂に入っちゃえよ」
「あ? 俺は後でも……」
「いいから!主役なんだから一番風呂にゆっくり入っていいぞ!」
やけに熱心に勧めるので、銀時はまあいいかと風呂へ向かった。
その間に十四郎は神楽の側にもじもじしながら近付いていく。
そう、二人きりになるためには、同居の神楽と定春をこの家から追い出すしかないのだ。
「か、神楽っ」
料理の残りを自分の腹に片付けている神楽に声をかけてみたものの、
「何アルか?」
「あ、あの……その……」
“今日は新八のところへ泊まりに行ってくれ”なんて、目的があからさまなことを言うのを躊躇う十四郎。
神楽が子供だったときから二人の関係はバレバレだったのに、改まってみると恥ずかしくなってしまった。
「えっと……あ、あのな……あー……」
くじけそうになる十四郎に、神楽が吹き出す。
「ぶふーっ。今更なにを照れてるアルか」
「……う……」
「今日は姉御のところへ泊まるアル。頑張るネ、とうしろ」
そう言って楽しそうに出かける支度をする神楽に、十四郎は何年経っても敵わないなと思うのだった。
風呂場からご機嫌な声の銀時のいまいちな鼻歌が聞えている間に、みんなが帰った後の和室に布団を敷く。
当然、銀時の分だけだ。
いつもと同じ布団なのに、“そういうつもり”で見るといきなり恥ずかしくなってきてしまった。
ここまでして銀時に「まだ早い」と断られたらどうしようかと考えていたとき、風呂場の扉が開く男が聞えて、十四郎は慌てて和室を出る。
ほかほかの銀時が戻ってきて、
「神楽はもう寝たのか?」
別に深い意味はなく姿の見えない神楽の所在を聞いてきた。
「し、新八のとこへ行った」
十四郎が挙動不審にそう答え、
「俺も風呂に入ってくる」
そのままぴゅーっと風呂場へ向かった理由を銀時はすぐに察する。
和室に“ちゃんと”一客敷かれた布団。
十四郎の挙動不審の意味は分かったが、銀時は複雑そうに頭を掻いた。
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