原作設定(補完)

□その25
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数日後、十四郎は銀時たちと一緒に真選組屯所を訪れていた。

このあと仕事があるからと新八と神楽も同行していたが、二人は小腹を満たしに食堂へ行ってしまったので、銀時と二人で局長室に向かう。

近藤たちは早急に行動してくたようで、十四郎が居た施設が閉鎖されたという報告を聞いてやってきたのだった。

山崎が潜入捜査で院長の悪事を調べ上げ、近藤が彼が手回しできないさらに上に手を回し、沖田はその“悪名”を盾に施設に乗り込んだらしい。

「トシに頼まれて来たって言ったらな、ガキ共みんな喜んでたぞ」

逃げ出す前に十四郎は「必ずなんとかするから」と約束してきた。

十四郎が居ないことで怒った院長に酷い目にあったかもしれないから、数日で約束が果たせてホッと息をつく十四郎。

しかし話はそれで終わらず、それぞれが驚く話になった。

「それでな、トシはこれからこっちで暮らしていくつもりか?」

「……できれば、そうしたい……」

「“土方十四郎”として?」

そう言われて十四郎の表情が少し曇る。

“土方十四郎”の記憶があって、“土方十四郎”を知る者たちの側で暮らすのならそれが自然だが、本来は別の人間なのだから。

「戸籍も別にあるだろう。まあ、それは何とでもなるんだが、本名と名乗ってる名前が別じゃ、これから面倒だしな……」

亡くなった両親には悪いが、ここで暮らすなら“土方十四郎”として生きていたいと思っている十四郎の気持ちを汲んで、近藤が恥ずかしそうに言った。

「それでな、トシはまだ小さいからちゃんとした後ろ盾があったほうが良いと思うんだよ。だから…あー…俺の養子にならねーか?」

彼なりに最良を考えての申し出だったのだろうが、十四郎と銀時は驚いた。

「近藤……十四郎?」

近藤が大好きな十四郎にとって彼の身内になるのは嬉しいことらしく、照れる十四郎と、

「喜んでんじゃねぇぇぇぇ!!」

怒る銀時。

「冗談じゃねぇ!またこいつに“息子さんを俺に下さい”ってやらなきゃいけなくなんだろーが!」

それに反応したのは、興味なさそうに携帯を見ていた沖田だった。

「また?…一回やったんで?」

そう聞かれて銀時は動揺し、十四郎と近藤は“あーあ、言っちゃった”という表情。

付き合ってることは公になっていたが、そこまでしたことは言ってなかったのだ。

「……う……あいつが、近藤に内緒にはできねぇって言うから……」

10年も前の話だけれど白状する銀時の顔は真っ赤で、あの時と同じだなと十四郎は笑ってしまう。

真選組副長としての立場上、得体の知れないヤツと付き合うことにしたこと。

近藤の親友としての立場上、男と付き合うことにしたこと。

それを報告しないわけにはいかないと銀時に申告したら、一緒に言ってくれるということになった。

“十四郎”としては付き合ってることを報告してくれればよかったのに、局長室で近藤を前に改まったらその場の雰囲気に流されたのか、銀時は土下座して、

「む、息子さんを俺にください!」

と言ってしまったのだ。

呆気にとられた近藤は付き合いを許してくれたが、あの頃の“十四郎”には銀時にそこまで好かれている自覚がなかったので、それはノリと悪ふざけに思えた。

しかし、“あの日”の銀時の涙を思い出せば、あれは本気で言ってくれてたんだなと、今更ながらに嬉しくなる十四郎だった。

いらぬ恥をかいてしまった銀時に助け舟が現われる。

「はい、タイムアウトですよ〜」

「仕事行くアル!」

お腹をパンパンに膨らませた二人がそう言いながら局長室に飛び込んできて、驚いている銀時の腕を掴んだ。

「ちょっ……お前らっ」

「満腹になったから働くアルネ!」

「満腹なのはお前らだけだろうがぁぁぁぁ!!」

「いってきます。土方さんは留守番お願いしますね」

十四郎をここへ置いていきたくない銀時が抵抗するが、大人になってさらに怪力になった神楽にあっさりと引きずられて屯所を出て行った。

残された三人は、静かになったところで話題を改めてみる。

「どうだ?トシ」

「……嬉しいけどやめとくよ」

近藤に尋ねられて、十四郎は笑った。

「このことが漏れたら俺はあんたの足枷になるし…あんたも俺の足枷になる。もう“先”に死ぬわけにはいかねーんだ」

局長の身内、ましてや子供となれば人質にとられる危険性が高まる。

再び“土方を失う”ことは近藤、真選組にとって苦渋の選択を迫られることになるし、十四郎にとっても命に係わる事体だ。

また銀時を悲しませるようなことはしたくない。絶対にしたくない。

十四郎のその願いが分かるから、

「……そうか……」

近藤は残念そうに答えただけだった。

そんな近藤に慌てて十四郎は付け加える。

「あ!……でも…これから剣の腕も磨くし、もっと大きくなって役に立ちそうだったら……俺を真選組に入れてくれるか?」

きっと銀時は反対するだろうが、途中で放り出した真選組に戻りたいとずっと思っていた。

今は足枷にしかならないけれど、今度こそ死ぬ以外の方法で最後まで近藤の隣に立ちたい。

生まれ変わった十四郎は銀時のことばかりで寂しく思っていた近藤は、そう言ってもらえて本当に嬉しそうだった。

「もちろんだ。楽しみに待ってるからな」

十四郎も嬉しそうに笑ったあと、沖田のほうを向いてにやりと笑う。

「今度は俺が副長の座を狙ってやるからな、クビ洗って待ってろ」

「…上等でさぁ」

十四郎の宣戦布告を受けて浮かべた沖田の笑みは、昔の小生意気な頃のことを思い出させた。

真選組屯所に10年前に失われた時間が戻ってきたようだった。

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