原作設定(補完)
□その25
33ページ/38ページ
食事の後、今後のことを少し話しあった。
「じゃあ、土方さんは万事屋で暮らすんですね」
「しょーがーねーアルなぁ。私が遊んでやるアル」
「わんっ!」
真選組に施設のことを頼んだがそこに戻る気はなく、十四郎はこのまま万事屋で暮らすことを伝えたら、二人と一匹は嬉しそうに笑う。
万事屋の生活形態は相変わらずのようで、新八は恒道館に帰り、神楽と定春はここに住んでいた。
仕事も儲けているわけではないらしいが、食うに困らないぐらいの安定はしているらしい。
それでも子供一人増えるとなると大変だろうと心配して、
「俺も仕事手伝うから」
十四郎がそう言うと銀時に頭をくしゃりと撫でられた。
「当然ですぅぅ。万事屋は一蓮托生、働かざる者食うべからずだからね」
「中身が土方さんだから頭脳系のお仕事も取ってこれますね」
「ペット探しも狭いところに入っていけるアル」
にいっと笑う相変わらずな三人に、十四郎は嬉しくなるのだった。
その夜、十四郎は和室の銀時の隣に布団を敷いて寝ることになった。
「……銀さん、分かってますよね」
「子供に何かしたら犯罪アル」
「下世話な心配してんじゃねぇぇぇ!!」
釘を刺されなくても、さすがにこの見た目では何かしてやろうかなんてチラリとも思い浮かばない。
実際、会ってから手を繋ぐ以上のことは何もしていなかった。
見た目がこんななのだから仕方ないとは分かっていても、寂しくなったのは十四郎のほうだった。
「…銀時…」
「ん?」
「……そっち行っていいか?」
躊躇いがちにそう言った十四郎に、銀時は笑いながら自分の布団をめくる。
いそいそと布団の中に入ってきてぴっとりと身体を寄せてきたので、それを抱き締めてその感触に銀時は胸がちくりと痛んだ。
大人の男が二人眠るには狭くて薄い布団で、いつもブーブー文句を言いながらくっついて寝ていた“十四郎”。
体は鍛えてるだけあってゴツゴツしていて抱き心地なんて少しも良くなかったけれど、甘えてくれてるのが嬉しくて抱き締めて眠った。
今の十四郎は体も小さく柔らかく温かい。分かっていてもやっぱりそれが少し辛いと感じた。
「……ごめんな……」
銀時の心を見透かしたようなタイミングでそう言った十四郎に、銀時は内心ドキリとしながら聞き返す。
「何が?」
「……本当は……もっと大きくなってから会いに来ようと思ってた……」
「?」
「……こ……これじゃ、何にもできねーだろーが……」
子供の声でとんでもないことを言いだす十四郎に、きょとんとしていた銀時が吹き出した。
見透かして言ったわけじゃないだろうが、それは十四郎にとっても大事なことだったのだろうと思う。
「ぶはっ……いやん、十四郎のえっちぃぃ」
「ちっ、違うっ!!俺はてめーがずっとしてねーなら可哀想だと思って!」
真っ赤になって言い訳をする十四郎を、もう一度抱き締めてやる。
「ばぁぁぁぁか。どんな姿だろうが何もできなかろうが、少しでも早く会いたかったに決まってんですよコノヤロー」
“違う”のは寂しいけれど、ここにいるのは確かに“十四郎”なのだから。
そう納得する銀時の腕の中で、こうしているだけで寂しさが和らいでいくのを感じた。
自分のこと銀時のことを思い出してから、江戸から遠く離れた場所で会いに行くことは無理でも電話をかけることぐらいはできた。
覚えていた電話番号を押し数回のコールの後、
「はい、万事屋銀ちゃん」
懐かしい声に何も言わずに電話を切ってしまったことが何度もある。
十四郎だと名乗らないほうがいいかもしれない。分かってくれないかもしれない。もう待ってなどいないかもしれない。
だけど“あの時”知った銀時の愛情の深さは、10年経っても自分を心に留めてくれていた。
銀時にはまだまだ我慢させてしまうだろうけど、十四郎はこうしているだけで本当に幸せだと思った。
.