原作設定(補完)
□その24
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土方が万事屋を出てからさほど時間は経っていないはずなのに、その背中を見つけたのは屯所の近くまで来てからだった。
それもそのはず、競歩の選手かと思えるほど足早で、しかもドスッドスッと効果音を入れたくなるぐらい力強い足取りだ。
ここまで歩いてくるうちに怒りが増したのか、これで怯んでしまっては追いかけてきた意味がない。
「多串くんっ!」
立ち止まっては貰えないだろうと思ったのに、名前を呼んだらピタリと足を止めた。
「……なんだよ」
いつもの素っ気無い言い方でそう答えたが、振り向こうとしないということはやっぱり怒っているのだろう。
ちゃんと顔を見て謝りたかったが仕方が無い。
「あー……さっきはひでーことして、ひでーこと言って……ごめん……」
素直に謝るというのは性格上、気恥ずかしいことだったがここで意地を張るほどバカじゃなかった。
それが伝わっているのか土方は、
「……分かった」
そう言ってくれたがやっぱり振り返らず、銀時が次の言葉を探しているあいだに、
「それだけか?」
「あ?」
「じゃあなっ」
話を打ち切って逃走へと転じた。
「ちょっ……待ったぁぁぁ!!」
銀時は慌てて追いかけて腕を掴んで引き止めたが、頑なに顔は背けたままの土方に胸が痛くなる。
怒って見えた足取りも、いつもどおりの素っ気無さも、本当の気持ちを隠すための虚勢だから。
「…ごめん…」
「分かったって言っただろうがっ」
イラつく声でそう言った土方の肩を掴み、強引に前を向かせた。
「……だったら、なんで泣きそうなの」
「…っ…」
溢れて表に出してしまった感情を消すことができず、土方は歪めた瞳をぎゅっと閉じる。
これ以上見せたくない、これ以上言いたくない。言わなくていいことまで言ってしまいそうで。
「て、てめーには関係ねーだろっ!!」
「ありますぅ」
「なんでだよっ!記憶が戻ったんなら俺がどうしようと関係な……」
「戻ったからあるんだよっ!!」
きっぱり言い切って叫んだ銀時に、土方は驚いたようで抵抗を止めて銀時を見た。
ので、銀時のほうも動揺してしまう。
逃げられるのも泣かれるのも困るが、改まって見つめられてもけっこう困る。
それでも今言わなくては、もう二度と言えない気がした。
ちょっと視線を外すと、恥ずかしさで顔が熱くなるのを耐えながら言ったのに、
「…ず、ずっと……好きだったんだよ……」
「嘘付け」
即答で否定されました。
あまりの即答っぷりに、
「嘘じゃないわぁぁ! おまえね、記憶が無くなったからって“恋人です”って言われてあっさり男を好きになると思ってんの!? 俺が多串くんを好きだったから、アイツも好きになったの! 俺のほうが先だったんですぅぅ!!」
ついつい、ツッコミ、告白、負け惜しみまでぶっちゃけてしまった銀時だったが、それを聞いた土方は眉間にシワを寄せて険しい顔をしている。
どうやらだいぶ困惑しているようで、怖い顔をしながらなにを言おうか迷っているようだった。
なので銀時は“もう一つの可能性”を確かめてみた。
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