原作設定(補完)
□その24
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それでも待ち合わせの場所は知らないし、土方を待ちぼうけさせるの悪いなと思えなくもない。
しかたなく電話をしようと受話器に手を伸ばしたとき、ふと考えた。
なぜ土方がこんな面倒くさいだけの嘘に付き合ってくれていたのか、と。
新八たちに懇願されたらあの割と生真面目なフォローの達人には断りづらかったのだろうと想像はできる。
だが、仕事も忙しいはずなのに毎日会う時間を作ってくれたのは何故だろう。
好意もないのに男と毎日デートなんて出来るものか?、と頭を巡らせて閃いた。
『あれ、もしかして多串くんも俺のことを少なからず想ってくれてたっていう感じ?だから内心喜んでデートしてくれてたって感じぃぃ!?』
思わず自分の閃きに胸をときめかせるが、それが“ない”ことを一番良く知っているのは自分だ。
土方と沖田と一緒に居るのを目撃した娘たちから二人のプライベート写真を依頼され、「ケッ」と思いながら何枚か隠し撮りしたら大変高額で買い取ってもらえた。
これは良い金になると二人をこっそり追い回していたら、銀時の前でも変わらない沖田と違い、土方は見たことがない表情ばかり見せてくる。
優しかったり厳しかったり世話焼きだったり、もちろん怒ってることも多かったが、良く笑っていた。
『俺の前では眉間にシワを寄せて怒鳴ってばかりなのに、あんな顔もできるんだ……ふーん……意外と可愛い……………って、可愛いってなんだぁぁぁぁぁ!!!』
そう思った理由を自覚するのは割と早く、そしてその自覚に希望がないのもすぐ悟った。
嫌われてるのは分かっている。それじゃなくても男に好意を寄せられても迷惑なだけだけだろう。
だから土方とは顔を合わせては喧嘩するだけの関係に留まり、笑っている写真を眺めて嬉しさと切なさを胸に収めてきたのだ。
相変わらず写真の中だけで可愛く笑う土方に、小さく溜め息をつく。
「だったらなんでアイツこんなこと……」
ふりだしに戻ったら、新八と神楽の言葉が脳裏を過ぎった。
「記憶がないときの銀さん? 真面目で働き者で、目も死んでなくて言葉遣いも丁寧で、ちゃんとした大人って感じです」
「姉御も“記憶が戻らないほうがいいんじゃないかしら”って言ってたアル」
体に嫌な汗が流れた。
『俺を嫌いなはずの土方が面倒なことを続けた理由が“その気になった”からだとしたら、もしかして記憶がない俺だから?真面目で働き者で、目も死んでなくて言葉遣いも丁寧で、ちゃんとした大人の俺だから好きになっちゃってこと?』
顔を合わせるたびに喧嘩ごしで憎たらしいことしか言わない銀時よりも、付き合ってると信じて嬉しそうにしている記憶喪失の銀時のほうが、会っていて楽しかったのかもしれない。
例えそんなことになってしまっても自業自得だと分かっていた。
が、分かっていてもおもしろくないのが男心だ。
『基本が俺だってのに、どいつもこいつも記憶喪失だったほうが良いみてーなこと言いやがって。俺だってやればできるんですぅ。いざというときはきらめくことができるんですぅぅ』
拗ねながら改めて土方の写真を見たら、なんだかイラッとしてきた。
『……なんだよ……毎日会ってたらその気になっちまうぐらい違うのかよ……コイツも記憶が戻ったって分かったらがっかりしたりすんのか……』
自分がライバルでしかも負けた、なんて思ったらイライラは治まらず、土方に電話をするのは止めてしまった。
待ちぼうけを食らったらいいと思っていたけれど、夕方になって『待ってるのか?』と内心ソワソワしはじめたころ、土方は万事屋に直接やって来た。
見たことがない不安そうな心配顔の土方と、記憶喪失の自分にムカつきさえする。
会っても会話しても“記憶が戻っていること”に気付かないくせに。
だから意地悪してやろうと意味深な態度でキスを迫ってみたら、あっさり受け入れられて余計にダメージを受けた。
『なんか慣れてるんですけどぉぉ!?もしかして初めてじゃないのぉぉぉ!?ちくしょうぉぉぉ、俺めぇぇぇ!!!』
さらに怒りのままに押し倒してみたら、さすがに驚いているようで体は強張らせたものの抵抗はされず、つい酷いことを言ってしまう。
「らしくねーんじゃねーの?」
いつものように喧嘩越しで嫌味っぽく言ってやったら、いつものように眉間にシワを寄せて怒鳴り返してくると思った。
なのに土方は泣きそうな顔をした。
傷つけた、と思ったら逃げ出す土方を追いかけることもできず、
「………アレレェ? 俺、もしかして何か勘違いしてる?」
土方が毎日デートなんて面倒なことを続けてくれた理由に、もう一つの可能性があることに気付き、銀時も慌てて万事屋を飛び出した。
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