原作設定(補完)
□その24
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家に来てからの土方を反芻していたら、逃げ出す背中を追いかけられずにいた銀時。
「………アレレェ? 俺、もしかして何か勘違いしてる?」
4時間前。
新八たちとは別行動で依頼を受けてきた銀時は、依頼料を手に満足気だった。
『これで今日も多串くんと会えます』
神楽に「デート代は自分で稼いだ分から出すアル!」と言われているのだ。
相変わらず何も思い出せないけれど、最初の絶望感とはうらはらに、こういう生活も悪くないんじゃないかと思うようになってきた。
一攫千金を夢見た浪費(パチンコ、競馬、などなど)が無ければ、“なんでも屋”なんて安定しない職場でもそこそこ収入があるようだし、真面目に働いていると新八と神楽も嬉しそうにしてくれる。
元の自分を知っている人から見れば今の自分は大層不気味らしいが、それもいつか慣れてくれるだろう。
『僕のほうが元のマダオより全然マシだし、多串くんも喜んでくれるんじゃないかな……』
だけど、土方のことを考えると胸が熱くて、苦しくなった。
記憶喪失が直るためにと毎日一緒にいてくれているだけなのにいつのまにか自分まで土方を好きになってしまい、土方も触れることを許してくれたけれど時折寂しそうな顔をする。
土方にとっては真面目な自分よりも、マダオだと分かっていて付き合っていた元の銀時のほうが良いのだろう、と思った。
『……ダメだ…やっぱり多串くんのためにも記憶を取り戻さなければ……』
それは今の自分が消えてしまうこと。もう土方にも会えなくなるということ。
そう思うと胸が痛いけれど、土方にはちゃんと幸せそうに笑って欲しいのだ。
『……だけど、どうやったら記憶が戻るんでしょう? 確か記憶が無くなった原因が頭を強く打って……』
考え込む銀時の背後から、
「銀ちゃ〜ん、危ないアルヨ〜」
なんて声がかけられたが、反応するまでもなく背中にむにっとした触感の強い衝撃を受け、その勢いで地面に突っ伏し額を思い切り地面にぶつけてしまうのだった。
「……ん……あ? いてて……」
「銀さん! 良かった、大丈夫ですか?」
ズキズキ痛む額を擦りながら目を開けると、新八が安堵したような顔で覗き込んでいた。
「……あ〜? 何が?」
「路上で定春に撥ねられたんですよ。頭打ったみたいで、意識がなかったんです」
背中が痛むのは定春の頭突きを食らったせいで、額の痛みは地面にぶつけたせいらしい。
「たかが犬に撥ねられただけネ。だらしないアル」
「定春は“たかが犬”じゃないからね!体重300kgもあったら車並みだよね!車に撥ねられたようなもんだからね!ちゃんと反省しろコノヤロー!!」
定春の体当たりなどモノともしない宇宙最強部族の神楽と一緒にされたくないと、保護者としてビシッと言ってやったのだが、神楽どころか新八まできょとんとしている。
「? ど、どうした?」
「銀さん?」
「何だよ」
「元に戻ってるアルか?」
「あ?」
「銀さんんんん!良かったような悪かったような、でも良かったぁぁぁ!!」
「???」
経済的な面で少しがっかりしながらも喜ぶ新八たちに、今度は銀時のほうがきょとんとするのだった。
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