原作設定(補完)

□その24
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翌日、待ち合わせの場所に現われた土方を見て、銀時はホッとしたように安堵したように笑った。

昨夜はあの後、銀時は後ろめたさから何も言わずに別れてしまったので、もう会ってくれないと思ったのかもしれない。

後ろめたいのは土方も同じだった。この銀時が向ける恋愛感情を受容することは、元の銀時の意に添わぬことなのだから。

それでも何の裏もない純粋な好意は居心地が良くて、銀時に会い、口付けを許容し、そして屯所で一人落ち込むのだった。

『何やってんだ俺は……』

バカなことをしているのは分かっている。

銀時に記憶が戻ったら今までのように顔を合わせれば睨み合って悪態を付き合うことになるのに。

そして自分だけが、今の甘い関係を思い出しては失恋した気分を味わうのだ。

「……人助けして損してりゃあ世話ねーな……」

新八の懇願を安易に引き受けてしまったことを、今、本当に後悔していた。




数日後。

帰ったら落ち込むことになると分かっていても、土方は約束の場所に来てしまう。

だが、銀時のほうが時間を過ぎても現われなかった。

今まで一度もそんなことがなかったので、土方は携帯を取り出し電話をしようとして、手を止める。

ここからなら直接家に行ってみたほうがてっとり早いと気付き、万事屋へ向かった。

ほとんど訊ねたことがない場所だったが、銀時と毎日会っていたせいか懐かしいような気さえした。

玄関の呼び鈴を鳴らし応答を待つ、を三回繰り返したところで、ようやく扉が開く。

開けたのは銀時で、土方を見てちょっと驚いたような顔をした。

土方のほうは、何かあったんじゃないかと思っていたので銀時の姿を見て息をつく。

「どうした? 待ち合わせ場所に来ねーから心配したぞ」

「……ん……ちょっと…………上がる?」

浮かない表情で誘ってくる銀時に、土方は躊躇いながらも部屋に上がった。

無事な姿を見て安心したのだが、どうやら何事もないというわけではないようだ。

部屋に通したあと、気まずそうに言い出す銀時に、

「…何か飲む? あいにく酒はな……」

「いい。それより、何かあったのか?」

土方は話を遮って訊ねた。

こんなふうに憂いた顔をしているのを見たことがなかったので、早く原因を問いたださないと落ち着かない。

不安げな土方を見て銀時は小さく溜め息をつくと、黙ってソファに座った。

土方も続いてその隣に座り返事を待っていたが、長いような短いような沈黙の後、顔を上げた銀時に見つめられて土方はドキリとする。

熱い視線が絡まり動けなくなって、そのまま近付いてくる唇を受け止めた。

何度かした行為なのに、今までと違って強引で、今までよりも熱い。

繰り返し口付けられたせいで頭がクラクラしてきたような気がしたが、それが気のせいじゃないのに気付いたのは背中にソファを感じたときだった。

ソファに押し倒した上であちこちに唇で触れる銀時に、土方は何も言わない。

触れた先から伝わる熱は土方から思考を奪っていくが、取り戻させたのもその熱だった。

耳元に熱い息がかかる。

「なんで抵抗しねーの?」

声も、見開いた目に飛び込んでくる姿も、銀時と同じだったのに“違う”とすぐに分かった。

自分を見下ろす視線にさきほどまでの熱は無く、冷ややかでさえあった。

「……よろ…ずや?……」

驚愕する土方に、銀時は自嘲じみた笑みを浮かべる。

「同情?親切心?……んなもんで、こんなこと許しちゃうんだ? らしくねーんじゃないの?」

記憶を取り戻し、記憶喪失だった間の事情を知った上で、こんな試すような真似をされた。

土方の中に激しい怒りが沸いたが、それよりも哀しみのほうが強かったらしい。

いつか記憶が戻ったらこんな関係も終わると覚悟していたのに、唐突に訪れた“その瞬間”に、土方は瞳と唇をきゅっと歪ませる。

もっと幼い頃だったら涙も流れただろうが、もうそんな無垢な感情は無い。なのに、こんなに苦しい。

そんな土方の反応が予想外だったのか、驚いた顔をする銀時の体を押し退けて、万事屋を飛び出した。



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