原作設定(補完)
□その24
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電車の中でもその奇行は続いていた。
知名度がなければただの“ほぼ裸のおっさんの人形”でしかないマヨリンをずっと抱き締めたままの土方を、銀時はせめてもと窓際のほうに隠してやる。
イケメンだからといって何をやっても許されるわけではない。
だが土方は人の目など気にせずおっさんと戯れているので、銀時は他人のフリで黙っていてやることにした。
そのうち土方の動く気配がしなくなったなぁと思ったら、いつのまにか眠ってしまったようだ。
不気味なおっさんを見ないようにすれば、気持ち良さそうな寝顔に胸がほっこりとしないでもない。
銀時は昨日からずっとドキドキしていた。
土方の寝顔をじっと見つめながら、
『依頼料寄越せって言われたらどうしよう』
と。
人形ですっかりごまかされてくれているような気がするが、いつ思い出して協力者として依頼料を要求されるかもしれない。
働きからみれば、折半どころかほとんど巻き上げられてもおかしくないのだ。
家で待ってる子供たちのためにも、金はできるだけ持って帰らなくてはと焦っていた。
そして江戸に到着して、
「じゃ、じゃあね、多串くん」
「万事屋」
そそくさと逃げようとした銀時は、土方に呼び止められてドキーッとする。
しかし、恐る恐る振り返ったら土方は何故かモジモジしていた。
「……そ、その……あ、ありがとうな……いろいろ」
「……え……いや、礼を言うのは俺のほうだけどね。ほとんど多串くんが働いたようなもんだし……ハッ!」
余計なことを言ってしまったと思ったが、土方は本当にそっち=金のことは考えていないようだった。
「そんなことは別にいい。わ、割と楽しかったし……最初はサイアクだと思ったけど……お、お前と一緒にいけて良かったよ」
抱き締めた人形がそこまで嬉しかったのか、どうしても礼を言っておきたい気持ちになったのかもしれない。
また初めて見る土方の顔は、銀時にはけっして見せることのない素直な、でもそれが恥ずかしいと思ってる顔だった。
「……あー……うん……まあ、俺も楽しかったですよ、うん」
「そ、そうか…………じゃ、じゃあなっ!」
ぴゅーっと逃げるように土方が走り去ると、銀時は力が抜けてその場にしゃがみこむ。
『なんだアレ……やっぱりものごっさ可愛いだろうが……え〜〜〜』
土方が帰宅した真選組では、微妙な空気が流れていた。
置手紙を残して土方が姿を消したあと、心配する近藤のところに入ってきた目撃情報が“銀時と一緒に電車に乗っていた”というものだったからだ。
仲の悪い二人が一緒に大きめな荷物を持っていたということで、
「二人で旅行!?あいつらが!?」
なんて噂が飛び交い、有り得ないと思って確認しようにも、土方同様、銀時もずっと万事屋を留守にしていた。
数日後、ようやく万事屋に連絡が取れたら、
「え?土方さんが家出?ああ、だから近藤さんが忙しくて着いてこなか……あ、いいえ、なんでもないです。銀さんですか?仕事の依頼で遠出してますけど……」
新八にそう言われてしまい、銀時と土方が一緒の可能性が出て来てよけいに焦ることになってしまった。
そして土方は家出する前とは裏腹に、心も体もリフレッシュしたような笑みで帰ってきたのだ。
「ト、トシ?」
「長く留守にしてすまかなったな。もう大丈夫だから」
「そ、それはいいんだけど……お、おまえ……万事屋と一緒だったのか?」
焦るあまりに思わずド直球で聞いてしまった近藤に、「んなわけあるかぁぁぁ!!」と土方は怒鳴ってくれるかと思ったが、何故かモジモジしながら、
「ま、まあな……あ、居ない間に書類溜まってんだろ。すぐやるから」
そう答えて副長室に戻ってしまった。
「ト、トシ!? ま、まさか……万事屋とぉ!?」
「きっとそうですぜぃ。土方さんも大人……いや、男の階段を登っちまったようですねぃ」
「いやぁぁぁぁ!!トシィぃぃぃ!俺が、俺が悪かったぁぁぁ!!」
近藤にいらぬことを吹き込んでニヤニヤしている沖田を、実は土方から連絡を貰っていて事情を全て知っていた山崎が困った顔で見つめる。
久々に副長室に戻った土方は、山済みにされた書類を見て溜め息をついたあと、持っていたマヨリン人形をその上に置いた。
予定していた旅行とはだいぶ違ってしまったが、“終わり良ければすべて良し”な気分だなと思いながら、ついさっきの自分を思い出して恥ずかしくなる。
マヨリンでテンションが上がっていたとはいえ、銀時相手にあそこまで言うつもりなんてなかったのに。
しかも、「俺も楽しかった」と言われて嬉しくなるなんて、とマヨリンを見つめながら違うドキドキが生まれる土方だった。
おわり
無理矢理だなぁ(笑)
ずーっと二人で居るのにラブ要素が少なくてすみません。
マヨリンを出しちゃったらなんかイチャイチャできなくなっちゃったんですよね(笑)
この後はお互い意識してもらってイチャイチャまで発展してくれたらな、と願うのでした。