原作設定(補完)
□その24
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結局、土方は“記憶が戻るまで付き合ってるフリをする”で同意した。
ガキ共にお願いされたから仕方なく、というのもあるが、沖田が写真付きで隊士たちに一斉送信してしまったためヤケクソになった、せいでもある。
「だいたい、なんで俺の写真なんか持ってたんだ」
勘違いすることになった原因を聞いた土方だったが、新八にはあからさに“マズイ”という表情で顔を反らされた。
「……おい……」
「あの、その…………土方さんと沖田さんは人気があるんで高く売れるらしいんです……生写真」
「!!? ……お前ら……」
「すいません、すいません、ほんとにすいませんっ!」
どうやら隠し撮りした二人の写真を、そういうものを取り扱う店に売却していたらしい。
稼ぎの少ないダメ社長の元で働く子供にそこまで謝られてしまうと、真選組一の苦労人・土方としてはいつもの調子で怒鳴れない。
「……今度やったら肖像権侵害、プライバシー侵害、警官侮辱罪でしょっ引くからな……」
「減るもんじゃなし、けちけちすんなヨ、トッシー」
「神経が磨り減るわっ!」
沖田を相手にしているようなテンションに、“同意”したことを後悔する土方だった。
それから毎日、土方は銀時と顔を合わせることになった。
「多串くんっ、お疲れさま」
「……おう……」
団子屋、映画館、健康ランド、屯所などなど。
銀時の記憶を思い出してもらえるように、かつ、土方と会ったことのある場所を巡ってみる。
土方としてはさっさと思い出してお役御免になりたいと思っているのだが、当の本人がいまいちやる気がない。
「多串くんって本当は多串くんじゃなくて……ひ…じかたくん、なんですよね? 土方くんって呼んだほうがいいですか?」
「……好きに呼べよ……」
「じゃあ、多串くんって呼びます」
なんて、関係のない話ばかりで盛り上がろうとするのだ。
それに、付き合いの浅い頃から馴れ馴れしく憎たらしい口調だった銀時に、敬語なんかで喋られると気持ちが悪い。
見た目もいくぶんきりっとしているように見えるし、話し方が変わると本当に別人のようだった。
「はい、土方さん、土方スペシャル!」
今日のデートは定食屋のため、おばちゃんがドンと出してきたマヨ盛り盛り丼に、銀時がぎょっとする。
「お、多串くん、それ本気ですか?」
「うめーんだよ」
「ええぇぇぇ……体に悪いんじゃ……」
「うるせー、てめーだって……」
「はい、こっちは銀さんの、宇治銀時丼!」
心配そうな顔をした銀時だったが、続いて出てきた餡子盛り盛り丼を見て、何か心の奥底にときめくものがあったらしい。
宇治銀時丼を手に取り、黙々と食べ始めた。そしてハッと気付いたような顔で土方を見る。
「多串くんっ」
もしかしてこんな単純なことで記憶が戻ったのかと期待した土方だったが、
「僕たち悪食で気が合いますね」
なんて嬉しそうに言われてがっかり。
「……俺の土方スペシャルを、てめーの猫の餌と一緒にすんじゃねぇ」
「僕のが猫の餌なら、多串くんのは犬の餌ですね」
いちいち“やっぱりコイツ、万事屋だ”と思えることを言い出しながらも、自分の隣でニコニコしている銀時に落ち着かない。
銀時とは、顔を合わせれば喧嘩ばかりが普通だった。
対テロ特殊警察なんて物騒な職に就いているせいで、一般人と必要以上に親しくなることもなかった土方だったが、万事屋の連中、とくに銀時はいくら喧嘩になろうとも話しかけてくる。
それが“ない”のが寂しいとかツマラナイとか思える程度には銀時を自分のテリトリーに入れていたことに、土方は始めて気付いた。
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