原作設定(補完)

□その24
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仕事の話は翌朝に聞くことになり、迎えに来てくれた男が寝泊りする部屋に案内してくれた。

「この部屋を使ってください。土方さんの分の布団も用意してあります」

銀時一人で来る予定になっていたので、急遽同行した土方の分まで用意してくれたのはありがたいと思う。

だから部屋を別にしてくださいとは言い出しにくいが、同じことを土方も思っているはずだから代わりに言い出してくれないだろうかと期待してみた。

が、部屋の中を見た土方はまたしても目を輝かせて、奥の方へとふらふら歩いていく。

そこには1mぐらいのアノおっさんが、もっちりむっちりと飾られていた。

「こ、これは……」

「……お、多串くん?」

「2年前に“マヨリンマヨネーズ50周年記念”として作られた等身大マヨリン!」

それ以上は聞かなくても想像ができるので聞きたくなかったが、土方は熱く語り出してしまう。

「50個限定の抽選で俺も隊士たちにマヨネーズを強制してまで応募したのに当たらなくて、これが当たった人は本当のマヨ好き……レジェンドマヨラーの証明だからヤフ○クにも出品されてない幻の品!!は、初めて見た……」

人形の元まで行き手を差し伸べたものの触ることができないぐらい感動している土方を、銀時は白けた顔で見ている。

マヨラーにしか分からない……分かりたくもない感動秘話だ。

こんなマヨ屋敷に住んでいる使用人でもそう思うのか、男は銀時に用件を話して帰って行った。

人形を見つめたまま微動だにしない土方に、銀時は面倒くさそうに話かける。

「多串く〜ん、もう遅いから風呂入って寝ませんか」

「……うん……」

「……ここの風呂、温泉引いてるんだってよ?」

「…………温泉?」

ようやく土方が人形から目を離して振り返った。

電車の中で思い描いていた“温泉”。

寝過ごしてこんな田舎に辿り着いたときに諦めた温泉が、土方を一時マヨリンから切り離してくれた。

いそいそと準備して風呂へ向かった土方を見送って、銀時は改めて部屋を見て溜め息をつく。

土方は人形にしか目に入らなかったようだが、12畳の部屋に敷かれた2組の布団。

ここの家の人は二人を“会社の同僚”だと思っているのだから仕方ないが、布団と布団の距離は30cmの“親しい間柄の距離”だ。

こんなところで二人並んで寝るなんて気持ち悪いが、土方を連れてきたのは自分なので仕方がない。

土方と時間をずらして大きな風呂で温泉に浸かり、見も心もほっこりして戻ってきた銀時は、部屋に戻って別な意味でほっこりする。

並べられた布団を見たらさすがに嫌がって、もしかして部屋の隅っこに布団を移動させて寝ているかと思ったのに、土方はそのままの布団に潜って寝ていた。

疲れていたのだろう。

ふかふかの布団に埋もれて眠っている土方は、

『……イケメンでも寝顔はまぬけ面なんだな……』

口を半開きにしてヨダレを垂らして熟睡している姿を見て、銀時は小さく笑う。

顔を合わせればいつだって喧嘩になってしまい、今日みたいに、電車で二人で弁当を食べたり、無人駅に取り残されそうになって弱気になったり、マヨ屋敷に興奮したりしている姿を見たり、始めてのことだらけだった。

嫌いなはずの自分の側にずーっと居る土方が何を考えているのかは分からないが、

『……思ってたより可愛い奴だよな………………?………可愛いはねーよ……うん、ねーな』

自分のほうは土方を見る目が変わったことに、なんだか照れくさい銀時だった。



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