原作設定(補完)

□その24
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「…かぶき町の万事屋…さんですか?」

駅前に横付けした車の運転席から降りてきた身奇麗な着物をきた初老の男にそう聞かれ、銀時はきちんと挨拶をした。

「はい。坂田です。よろしくお願いします」

いつもはちゃらんぽらんでも従業員のいる社長であるため、やるときはやるのだ。

とくに銀時のように見た目もちゃらんぽらんだと、最初だけでもきちんとしておかなければならない。

珍しい風体の銀時を見つめていた男の視線がついと外れ、

「後ろの方は……」

「は?」

そう言われて銀時が後ろを振り返ると、土方が憮然とした気まずそうな顔で立っていた。

「………」

なぜ土方がそこに立っているのか、銀時なら察することができるはずなのに何も言おうとしないのは、土方の口から言わせるため。

それが分かるから土方は悔しそうな表情で、

「……じゅ、従業員です」

銀時の下で働くという屈辱的なポジションを自ら宣言した。

それに対し銀時は余計なことを言わず、前を向くと、

「従業員です」

と改めて紹介することで土方の提案を呑んでくれるのだった。

しかしそれが厚意であるはずがないことも分かっている土方は、迎えの車に同乗し、何やら楽しげな銀時に己の運の無さを嘆く。

が、運命の神……もしかしたら女神は、“働き者でイケメン”の味方だったようだ。

街灯もないような道を数十分走り、辿り着いた家はかなり大きいお屋敷だった。

田舎の大地主かなにかだろうかと、依頼料に期待に胸を膨らませた銀時だったが、建物の中に案内された途端、

「こんな田舎までご足労ありがとうございます」

「いえ、こちらこ……」

出迎えてくれた女主人の後ろに見える風景に、精神的ダメージを受ける。

室内はほぼ淡い黄色のもので溢れ、あちこちに置かれたほぼ裸のむっちりとしたおっさんの人形。

ちらりと背後の土方を見ると、銀時とはうらはらにぱーっと顔を輝かせていた。

土方が愛して止まないアレに描かれたおっさんだ。

目をキラキラさせて食い入るようにおっさんを見つめている土方を放っておいて、銀時は恐る恐る尋ねた。

「あの……この家は……」

「お見苦しくてすみません。私の父が“マヨリンマヨネーズ”の創業者なものですから、ついつい実家までこんな有様になってしまって」

恥ずかしそうにそう言ったが、自社で作ったグッズを所狭しと並べているのだから、満更でもないのだろう。

せっかく大企業の実家からの依頼なので顔には出せないが、内心うんざりする銀時の代わりに土方が、

「そんなことない!素晴らしい家です!俺もここに住みたいぐらいだ!」

見たこともないようなハイテンションでそう言った。

お世辞のかけらも感じさせない土方の褒め言葉に、女主人のほうも気分を良くしてくれたようだ。

予想以上のもてなしをしてくれて、遅い時間だったが夜食も準備してくれた。

もちろんマヨネーズは使いたい放題。

嬉々として“土方スペシャル”を作る土方に、女主人のほうが心配するが、

「…あの、そんなに無理しなくても…」

「大丈夫です。コイツはこれが普通なんで……」

げんなりとしながら銀時のほうがフォローしてやるのだった。



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