原作設定(補完)

□その24
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土方にはちっとも責任のない反省を終えたころ、通路を移動販売のワゴンが通りかかった。

仕事明けでそのまま飛び出してきてしまったので食事を取っていないことを思い出し、弁当とビールを頼んだら、

「お弁当2つとビール2本で4200円になります」

にっこり笑ったお姉さんにそう言われ、「は?」と思った土方の脇からぬーっと伸びてきた手が、弁当とビールを受け取って引っ込んだ。

手の主は当然銀時なわけで、睨みつけてやると、

「ゴチ!」

悪びれた様子もない笑顔でそう言われ、怒鳴りつけるのを堪えて移動販売のお姉さんにお金を払う。

騒がしいかぶき町ならともなく、こんなところで銀時と怒鳴りあいをするのはマズイと引いたのだ。

弁当とビールぐらいで静かになってくれるなら安いものだと諦めて自分の分を食べた土方だったが、疲れた体に満腹とビールは効果覿面だった。

『はあ、やっと一息つけた。あとは温泉……奇跡的に予約が取れた温泉宿に泊まって……嫌なことはぜ〜〜〜〜んぶ忘れよう』

忘れたいものの中に隣に居る銀時も含め、良い気分で目を閉じたらそのまますーっと意識を失い、気が付いたときそこは、

「終点〜、終点〜。お忘れ物ないよう御降車ください」

だった。

「……しゅ、終点んんんん!!?」

時計を見ると夜の10時近い。降りるはずだった駅には8時到着予定だったので、2時間も寝過ごしたことになる。

「あれ〜、多串くん、途中で降りるんだったの?」

焦る土方に相変わらずの呑気な声をかける銀時に、今度は我慢できなかった。

「なんで起さなかったんだてめー!」

「いや、どこで降りるとか聞いてないし」

「な、なんで聞かねーんだよっ!!」

「え?俺が悪いの?寝ちゃった多串くんが悪いんじゃないの?」

「…ぐっ……て、てめーだって寝てただろうが」

「俺の目的地はここだからね。ほら、降りないと車掌さんが困るよ」

そう言って銀時は荷物を網棚から降ろし、楽しそうに電車を降りていく。

土方が困っているのが嬉しいらしい銀時に、もっと文句を言ってやりたかったがとりあえずは電車を降りるしかない。

そして降りた駅で、土方はもっと困ることになった。

「……改札に駅員が居ない……」

「無人駅みたいだねぇ」

「引き返す電車は……」

「今のがホントに最終みたいだよ」

「か、籠屋……」

「あるように見える?」

誰も居ない駅の外に出てみたら、やっぱり誰も居なかった。

土方が飛び乗った電車は、主に江戸から観光地を結ぶ路線で、そこからさらにド田舎を終着にした一日一本だけ走る電車だったのだ。

それに気付かずうっかり寝過ごしてしまったのは自分だが、

「なんでこんなところまで走ってんだ、電車ぁぁぁぁ!!」

ついついそう叫んで八つ当たりする土方に、銀時は急に興味なさそうな声をかける。

「はいはい。それじゃあ、僕は依頼主の人が迎えにくるからこのへんで。頑張ってね〜」

放っておいて欲しいときには近寄ってくるくせに、困っているときには放置するというひねくれた人間には慣れているため、土方はそれを無視して携帯を取り出した。

屯所に置いてきた仕事用のではなく、主に山崎直通の裏でこっそり行動する用の電話だ。

嫌な予感はしていたがやっぱり圏外で、薄暗い明かりの駅舎を覗くが町の情報が掲載されたポスターどころか、公衆電話すらない。

『どんな田舎だよっ!!』

常日頃、我慢に我慢を重ねてきて、ようやく思い切った行動に出てみた結果がこれだ。

ドSの国の王子の呪いなんじゃないかと思い始めたころ、駅前に自動車の明かりが近付いてくるのが見えた。

銀時が先ほど言っていた“依頼主のお迎え”だろう。

このままじゃ、この寂れて薄暗くてジメッとしてて何が出てきそうな駅舎に一人残されてしまう、と思った土方はプライドを捨てる決心をした。


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