原作設定(補完)
□その24
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#234
作成:2016/09/28
“探さないでください”
という置手紙を残して土方十四郎が真選組屯所から姿を消したのは、長い激務を終えた夕方のことだった。
「トシィィィ!!?」
近藤は動揺しているようだったが、沖田は呆れ、山崎たちなどは仕方がないと思えた。
“長い激務”だったのはほぼ土方だけで、近藤は副業の“ボディガード”とやらに余念がないし、沖田は……沖田だし、山崎たちもできるだけのフォローはしていたのだがどうしても土方に頼ることになる。
そんな生活から解放された瞬間、仕事の“し”の字もない遠い所へ行ってしまいたい、と思っても無理はなかった。
副長室に置いていかれた携帯電話が“何がなんでも絶対気が済むまで帰ってこねー!”という土方の決意を感じさせた。
そんな感じに飛び乗った電車の中で、ぎゅうぎゅうの自由席を見て土方はうんざりと肩を落とす。
運の悪いことに今日は連休前で、夜に移動して翌日から遊ぼうという家族連れが多かったのだ。
自由席は諦めて車掌に指定席の有無を尋ねると、空席があるというのでホッと息をつく。
移動した指定席の車両もほとんど満席で、世の中にはちゃんと休みが取れる職業もあるんだな、と当たり前のことを考えたりした。
そして指定席の番号を辿って見つけた座席の窓際の先客を見て思わず、
「げ」
と声が出てしまった。
白いもふもふっとした髪の毛。土方の声を聞いて上げた顔には、死んだ魚のような目とだらしのない口が付いている。
「あ? 多串くんじゃん」
驚いているようだが呑気な声でそう言われ、土方は力が抜けそうになった。
屯所を抜け出して何もかも忘れられるところへ行こうという途中で、よりにもよって会いたくない人間トップ5にランクインされた奴に会うとは。
とことんついてない。
おまけに、都合よく通りかかった車掌に他の席がないか聞いたみたが「あいにく満席になりました」なんて言われてしまう。
「諦めてここ座るしかないんじゃね?それとも自由席に行く?」
自分が嫌で席を替えようとしたのだと察した銀時は、それが失敗に終わったのが嬉しそうだった。
コイツの隣に座るのも嫌だが、自由席に行くのも嫌だ。
土方はぐっと我慢して、荷物を網棚の上に乗せる。横にあるのはおそらく銀時のだろう荷物も割と大きめだ。
無視してくれても全然かまわなかったのだが、嫌がられてると思えば余計に話しかけたくなるドSの銀時だったので、
「多串くん一人?珍しくね?旅行?」
矢継ぎ早に質問してきた。
無視しても全然かまわなかったのだが、嫌がっていると余計に話しかけてくるだろうと思って答えてやる。
「まぁな」
まとめて1つの言葉で済ませるなんて失礼なことをしたのに、銀時にはウケたようで肩を震わせて笑っていた。
とことんやりにくい。
放っておいて欲しいのに、さらに面倒くさいことを言ってきた。
「“お前は?”って聞いてくれねーの? 俺とお前の仲なのにぃ」
“どんな仲だよ!”とツッコミを入れてやりたかったが、満席の車両で意味ありげなとんでもないことを言い返されそうだったので、やめた。
「……お前は?」
「お仕事でぇす」
「……一人でか?そっちこそ珍しいだろ」
「それがさぁ、“スマイル”が極秘温泉旅行を慣行するってんで二人とも付いてちゃったんですよ。ちなみに、なんで“極秘”かは“言わずもがな”だよねぇ」
付いてこられたら困るゴリラストーカー回避のためだというのはすぐに分かり、ここに居ないお妙に心の中で謝罪する土方だった。
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