原作設定(補完)

□その24
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#231

作成:2016/08/30




いつものように市中見回りに出た土方が、一緒に居た沖田がいつものように買い食いしてるの嗜めようとしたとき、いつもと違うことが起こった。

背後からにゅっと伸びてきた腕に抱き締められるまで全然気が付かず、

「多串くんっ!!」

あまりの出来事に、そう呼ばれて、それが聞き覚えのある声でもしばらく動けなかった。

土方が抵抗しないのをいいことに、愛おしそうに抱き締めながら背中にスリスリして、

「大丈夫っ、たとえ思い出せなくても俺はずっとお前のことが大好きだからっ!!」

なんてことを叫ばれても、意味が分からず呆然としていた土方だったが、携帯カメラのシャッター音で我に返る。

沖田がおやつを食いながら、携帯を構えて連写していた。

「な、何してんだ、お前らぁぁぁぁ!!!!」

土方は怒号とともに、沖田と、背後に張り付いた銀時に拳骨を食らわせた。

撃沈している二人を鼻息荒く見下ろしていたが、銀時はしぶとく腕を伸ばして足に抱きつこうとするので、剥がそうと格闘しているところにバタバタと足音が近づいてくる。

「銀ちゃんっ!」

「あ!!ひ、土方さんっ!?」

どうやら銀時を追いかけてきたらしい神楽と新八は、土方の姿をみて明らかに動揺していた。

それに気を取られている間にまた銀時がぎゅうぎゅうすりすりと抱き付いてきたので、張り倒して足蹴にしながら事情を知っていそうな新八たちを睨みつける。

銀時の行動も言動も、土方にはまったく心当たりがないことだったからだ。

「どういうことだ、これは」

「すみません、すみません、ほんとにすみませんっ」

ぺこぺこ謝る新八と、倒されている銀時の両腕を掴んで確保する神楽。

「あの、実は銀さんまた事故に合ってしまって……」

「頭くるくるぱーになったネ」

「最初からくるくるぱーだろ」

「もっとぱーになったアル」

「……つまり、記憶喪失か? また?」

以前そのいざこざに巻き込まれて……というか、こっちのいざこざに巻き込んだ、というか。

それを思い出して眉間にシワを寄せる土方だったが、それだけでは先ほどの奇行の説明にはなっていない。

いぶかしむ土方に視線に気付いて、新八が小さくなりながら追加説明してくれた。

「何も思い出せないって言うんで、いろいろ話しているうちに……」



+++


「……年中、死んだ魚のような目をしてぐーたら生きる屍のような男で、家賃も給料も払わないプー……」

「そうアル」

「神楽ちゃん、前にも同じことを言って銀さん傷つけてたよね……」

「ホントのことネ」

「他に何かないんですか? あ、付き合ってる人ぐらい居たんじゃ……」

「んなもん居るわけねーだろ。夢みてんじゃねーアル」

「死にます」

「えええぇぇ!!?」

「仕事も無い、恋人も居ない、そんなダメな人生は思い出しても仕方ないじゃないですか。死のう、そうしよう」

「ちょっ、ちょっと、待ってください! えっと、あのっ、でも僕たちに内緒で誰かと付き合ってたみたいですよっ!確か机の中に写真を……」


+++



「……というわけで、土方さんの写真を見てすっかりその気になってしまったみたいで……」

不可抗力とはいえ、とんでもない事態に導いてくれた新八に怒りを覚えるが、ここで子供を怒鳴りつけるのも大人気ない。

足元で声に出さずに腹を抱えて笑っている子供(沖田)は大人気なくても後で叱るとして、今は先にやるべきことがあった。

神楽に捕獲されながらも土方に擦り寄ってこようとする銀時に、

「おい。俺とてめーは付き合ってなんか……」

「土方さんんんん!!!」

訂正しようとした言葉は新八に遮られた。

そして銀時から遠ざけるように数メートル移動したあと、

「お願いしますっ!今は他に銀さんに生きる希望が何もないんですっ!付き合ってるフリしてあげてくださいっ!!」

そう懇願された。

“他に希望がない”なんて酷い言われようだが、土方の知る限りでも銀時の生活は酷いものだったので、子供にお願いされると拒絶するのは胸が痛まないこともない……ような気がする。

それに前回の記憶喪失の際には、マムシの爆弾工場を壊滅してくれたという借りがあった。

チラリと視線を向けると銀時が嬉しそうに笑ったので、土方は深い溜め息をつくのだった。


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