原作設定(補完)
□その23
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新八と神楽が笑い飽きた頃には銀時はすっかりヘコんでしまい、猫耳をぺたーんとして項垂れている。
なので新八は土方に直接聞くことことにした。
「それで、銀さんはいつ戻るんですか?」
「今解毒剤を持ってこさせてる。それを飲めばすぐ戻るだろ」
スプレーの液体を浴び、周りの呆気にとられた視線と、自分の猫手、そして鳴き声でとんでもない状態になっていると知った銀時は、“パルプンテをかけられてなぜか改心の一撃を連発する”ごとく攘夷志士を一掃してしまった。
それからこの姿をなんとかしようと屯所に連れて行こうとした土方に、こんな姿を不特定多数に晒せないと言い張って万事屋に帰ってきた。
もちろん新八たちに爆笑されるのは想像できたが、まだ二人で済むほうが良いような気がしたのだ。
そのため土方は電話で山崎に連絡し、現場に残った攘夷志士たちの確保と、スプレーから解毒剤を特定し持ってくるように頼んでいた。
「なんだ。良かった〜」
「このままじゃ気ぃ使うネ。毎日おなか痛くなるネ」
「…にゃにゃにゃぁぁぁ(毎日笑う気かよ、いいですね、楽しそうで)」
ふて腐れながらも銀時が何やら言い返したとき、玄関のチャイムが鳴り、土方がダッシュで走って行く。
「お邪魔しま〜……うわっ、副長?」
「ご苦労!薬はあったか!?寄越せっ!そんでてめーは入るな!」
「ええ!?なんでですか」
「分かんだろ。可哀想だから入ってやるな」
「……あー……」
スプレーを調査して解毒剤を探してきたのだから銀時がどういう姿になっているのかは承知の上で、それを見られたくないらしいというのも想像できる。
山崎が帰ると土方は解毒剤を持って銀時のところに戻り、それを飲ませた。
液状の薬をゴクゴク飲んで、これで元に戻れる、と幸せそうな顔をする銀時だったが……。
「どのぐらいで効くアルか?」
「…えっと……5分ぐらいだとさ」
10分経過。
「……戻りませんね……」
20分経過。
「にゃあぁぁぁ!?(戻らないですけどぉぉ!?)」
「……えっとぉ…………“体質に合わないときは効果が出ない場合もあります”」
「え? じゃあ、銀さん戻れな……」
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!(どうしてくれんですかコノヤロォォォ!!)」
体質に合わなかったようだ。
ずっと何か叫んでいる銀時がさすがに気の毒に思えてきて、新八が不安そうに土方を見る。
「ど、どうしましょう」
「ん。他に合う薬がないか探すしかねーな」
「すぐには戻れないってことですよね」
「仕事ができないアル!!ご飯が食べられないアルゥゥ!!」
そこを心配するのかよ、と思ったが、こうなった責任は自分にもあるので土方はちゃんと考えていた。
「大丈夫だ。その間の生活費は真選組が補償するから」
「まじでか!ご飯食べても良いアルか!?」
「酢昆布も買ってやるよ」
「キャホォォウ!銀ちゃん、いつまでもそのままで良いアル!」
「にゃああ(不吉なこと言うな)」
当面の生活が補償されたとホッとする新八だったが、それであることを思い出した。
「あ、そういえば……銀さん、依頼料を貰いに行ってきたんですよね? 僕らの今月の給料……」
新八が質問しようと向けた視線を、銀時はあからさまにさっと避けた。
「……おい……」
「…………」
「僕たちの給料、今月は払える予定でしたよね」
“新八たちの給料”がどうなったのか土方は知っていたが、あえて助言はしない。銀時の自業自得だからだ。
「…にゃ、にゃぁぁぁぁ」
可愛い声で首を傾げる銀時。
本当に猫だったら誤魔化せたかもしれないが、猫コスプレをしたおっさんにすぎないため憎たらしさが前面に出てしまっている。
「使ったな!僕らの給料パチンコに使ったんだろ!!」
「またかこのダメ社長ぉぉぉぉ!!」
「にゃ、にゃにゃ、にゃぁぁぁ」
必死に言い訳をしているようだがもちろん分からないし、どうせたいしたことは言ってないだろう。
新八と神楽は容赦なく銀時を玄関から放り出すと、
「元に戻って給料分稼いでくるまで帰ってくるなぁぁぁぁ!!!」
そう怒鳴りつけて扉をぴしゃりと閉めた。
玄関前でひっくり返っている銀時の隣で、土方が哀れみを込めて言ってやった。
「……も、戻れたら俺からの侘びとしてなんとかしてやるから……」
「……にゃぁぁぁ(お願いします)」
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