原作設定(補完)
□その23
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#228
作成:2016/08/23
真選組屯所の廊下を土方が険しい顔で歩いていた。
それはままあることなので、触らぬ神になんとやらで隊士たちは避けるようにしていたが、外での任務から戻ったばかりでソレを知らない山崎は、
「副長、ただいま戻りました。それと、これ万事屋の旦那から預かって……」
報告の前に、懐から一通の封書を取り出し土方に差し出そうとした。
その瞬間、土方の双眸がギラリと光り、手紙を奪うと読みもせずにビリビリに破いて、
「ふんっ」
廊下に叩き付けるようにして副長室へ戻って行く。
何か勘に触るようなことをしてしまっただろうかと怯えた山崎だったが、足元から鼻歌が聞えてきたので視線を向けると、沖田が楽しそうにバラバラになった手紙をジグソーパズルのように組み立てていた。
原因は自分じゃなくて手紙のほうか?と、山崎もそれに参加して並べていく。
5分後、廊下に復元された手紙の内容は、
“ごめん 悪かった 本当にすみません 申し訳ありませんでした”
原因は書いていないながらも、とにかく謝罪したいのだけは分かった。
「旦那、なにしでかしたんでぃ」
「……あんなに怒ってるんだから、相当なことですよね……」
これからを思うと溜め息の出る山崎と、これからを思うとうきうきわくわくする沖田だった。
副長室の襖をバンッと乱暴に閉め、文机の前に座るとすぐに煙草に火を点ける。
イライラを解消させようと思っているのに、すぐに昨夜のことを思い出してまた腹が立ってきた。
『ちくしょう、あの腐れ天パー!』
昨日の夜、土方が目を覚ますとそこは、いかがわしい雰囲気の部屋だった。
大きいベッドと裸の自分と、そして隣には裸の銀時。
そして“寝てただけ”とはとても思えない身体に残る違和感。
動揺しながらも“何が”あったのか必死に考えるが、居酒屋で銀時と一緒に酒を飲んだところまでしか思い出せない。
記憶より前に裸だったことを思い出し、隠そうと布団を引っ張ったらそれを掴んでいた銀時が目を覚ましてしまった。
どうやら銀時のほうには記憶があるようで、土方を見た後、いろいろと言い訳がましいことを言いだした。
それがあまりにもムカついて、土方は怒鳴り付けて帰ってきたのだ。
『人の気も知らねーでっ!』
覚えてないし驚いたけれど銀時と身体の関係を結んだことが嫌じゃなかった理由も、あんなことを言われて胸が痛む理由も、土方には分かっていた。
会えば喧嘩ばかりだった銀時と、いつのまにか毎週同じ曜日の同じ時間に飲むようになった。
大勢よりも一人で飲むほうが楽な土方だったのに、銀時が隣で飲んでいるのは悪い気がしないのだ。
それが何故なのかを考えていたらほろ酔いの銀時が楽しそうに、
「俺さぁ、こんなに気が合う奴は江戸に出てきて初めてだから……仲良くできて嬉しいんですよコノヤロー」
思わずこぼした本音に、それか、と思った。
普段は気が合いすぎて憎たらしいこともあるが、酒の席ならそう悪いものでもない。
「…別に仲良くねーだろ」
と答えながらも、土方は満更じゃない気分だった。
そんな“気分”が一歩前進したのは、いつもの時間になっても銀時が現われなかった日。
「ま、こんな日もあるだろう」
と久し振りに一人で飲んだけれど、普通なら30分も居たら充分なのに2時間過ぎても帰れずにいる。
もういい加減帰らないと、と思ったとき銀時が来て、嬉しがってる自分に気付いた。
嬉しくて胸がドキドキして、もっと一緒に居たくて。
それは銀時が好きだからなんだと自覚したが、銀時が自分に向けているのは“友情”だった。
好きだなんて言ったらそれすら壊れてしまうかもしれない。だから言えない。
それでもかまわないと気持ちを抑えて頑張ってきたのに、“あんなこと”になってしまったのだ。
時間が経つにつれて、昨夜のことを少しだけ思い出した。
銀時が優しく触れてくるから、嬉しくなって自分から抱き締めた。
抵抗しなかったのだから銀時が勘違いしても責めることなんてできない。
怒られるべきなのは自分だと、土方はきつく目を閉じ歯を食いしばった。
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