原作設定(補完)
□その23
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#227
作成:2016/08/22
急な仕事が入って万事屋と明日会う約束がダメになったことを、後で電話して言わなくてはと思いながら市中見回りをしていたら、髪をもふもふっと揺らしながらダラダラ歩いているヤツを見つけた。
丁度良かったと思い、声をかけてそのことを告げたが……どうやら失敗したらしい。
いつものように、
「分かった。じゃあ、また今度な」
と言ってくれるかと思ったのだが、万事屋は笑顔を無表情に変えて、小さく溜め息をついたようにさえ見えた。
怒ってるな、と分かったけれど、ここで素直に謝れるようならもっと上手く世渡りできている。
いつものことなのになんで怒るんだ、とか、仕事なんだから仕方ねーだろ、とか言いそうになる前に、苛立った声で言われた。
「おめーさぁ……今、俺に会えて丁度良かったと思ってただろ。また約束破んの悪ぃなぁとか、思ってなくね?」
図星だったのですぐに言い返すことができなかった。
万事屋がいつも笑って許してくれるのを、当たり前のように思ってしまっていたかもしれない。
だけど、そういうのを全て分かった上で面倒な俺と付き合ってるんじゃねーのかよ。
今、口を開いたら、言わなくても良いことまで言ってしまいそうで黙っていたら、万事屋はもう一度溜め息をついて、
「……もういいや。じゃーね」
そう言って面倒くさそうに背中を向けた。
あ? もういいや、ってどういう意味だ?
もしかして、もう付き合うのを止める、って意味か?
背中にひやっと冷たい汗が流れて、さすがに万事屋を追いかけていた。
「おい!ちょっと待てっ!」
呼び止めたものの、隊服を着たまま男に詰め寄ってる姿というのは穏やかじゃない。
万事屋の腕を引っ張ると、店の路地裏に引っ張って行った。
「なんですか?職質ですか?」
他人行儀なその言い草に、意地を張ってる場合じゃないのを察し、
「……わ、悪いと思ってないわけじゃねーよ……だけど」
ちゃんと説明しようとしたのに、万事屋はとんでもねーことを抜かしやがった。
「じゃあ、ちゅーして」
「…………あ?」
「多串くんからちゅー。悪ぃと思ってんでしょ?だったら普段は恥ずかしくてやれないことも、やってくれる誠意ぐらいは見せられるよね?」
な、なにを言い出してんだ、この天パーは。
確かに照れくさくて自分からしたことなんてなかったけど、んなことで気の晴れるようなもんか?
またからかわれてるのかと思ったが、ヤツの顔がまだ不機嫌なままだったので、できない、とは言えそうにない。
誠意、と言われたからにはやってみせるしかないのだ。
「……分かった」
とは言ったものの、顔は熱くなるし体は動かねーし。
業を煮やした万事屋が、
「無理しねーでもいいよ」
なんて言い出しやがったので、
「無理なんてしてねぇ!」
そう答えながら、路地裏で人目がないことを素早く確認すると、万事屋にぶつかっていく勢いで唇を重ねた。
ずっとデートらしいデートもしていなかったから、久し振りの感触だった。
目的は果たしたのですぐに離れようと思っていたのに、体がぐっと固定されていて動けない。
万事屋の腕が背中に回っていて抱き締められていて、そのまま長〜〜〜いキスをすることになってしまった。
それから、万事屋は肩に額を乗せ……体を震わせて笑いやがった。
「……てめー……」
「ぷふふっ……おまっ、ものごっさ可愛っ……」
またやられた。やっぱりからかわれていただけだったのだ。
俺がむすっとしているのを見なくても分かるらしく、抱き締める腕をさらに強め、
「拗ねるぐらい許しなさいよ。寂しいの我慢してる銀さんに、ちょっとぐれーサービスしてもよくね?」
そう言いながら甘えるようにすりすりされたら、許さないわけにはいかないだろーが。
普段は我が儘なことばっかり言っているくせに、本音はぐっと我慢してくれていたらしい。
「……気ぃ済んだかよ」
「うん。だから時間できたら今度こそちゃんとデートしてくださいコノヤロー」
返事の代わりに万事屋の背中に手を回し、ぎゅーっと抱き締め返してやったら万事屋は嬉しそうに笑う。
今度こそちゃんとデートして、好きなもん好きなだけ食わせて、ちょっとぐれー甘えてやろう……なんて思ってしまった。
おわり
久し振りに“師匠”の薄い本(再録本だから薄くないけど)を読んでいたら、土方がものごっさ可愛いんですよ。
ああ、うちの銀さんが土方を可愛い可愛い思うのは、やっぱり“師匠”の影響だなと、実感しました。
なので可愛い土方を書きたくなったんですが……失敗かな?(笑)