原作設定(補完)

□その23
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#226

作成:2016/08/20




真選組屯所。

鬼の副長と呼ばれる土方十四郎だったが、今日はすこぶる機嫌が良かった。

ここ一週間で、過激派の攘夷党をいくつも検挙できたし、ずっと行き詰っていた問題も解決したし、総悟がめずらしく大人しくしていたおかげで怪我もなかった。

おまけに今日は天気も良くて、久し振りの非番を穏やかに過ごせそうだった。

食事をして映画を見て、健康ランドなんかに行ってこようかと、近藤へ外出を告げに行くと、

「お疲れトシ!みんなには内緒だけど、今度松平のとっつぁんがフグ食いに連れてってくれるそうだぞ」

コソコソっと、でも嬉しそうにそう言われた。

「フグって、あの一人前数万はするやつかっ?」

「おう。自腹ではなかなか手が出ねーけどな。とっつぁんの奢りだし、楽しみだなぁ」

「…マヨを準備しておかねーと」

「……いや、トシ、マヨは……」

「あ? ああ、マヨは店に置いてるよな」

「それはぁ…………ま、いいか。それより他のヤツらには絶対内緒だぞ。着いて来たがると困るからな」

「分かった」

真選組という特別な部署に就いてそれなりの給料を貰えるようになってはいたが、貧乏侍だったときの名残で高給食材とは縁遠い。

気前の良い松平と一緒なら安心だと、その日が待ち遠しくなった。

気分の良いまま外出した土方は、いつもの定食屋に行く途中で団子屋が目に止まり、久し振りに甘い物でも食べたいなと思って立ち寄ると、

「多串くんじゃん。団子食いに来たの?」

銀時に声をかけられて、一緒に団子を食べた。

会えば喧嘩ばかりだった銀時がいつしか親しげに声をかけてくれるようになり、それが嬉しいと思うようになった。

沖田には「土方さんは友達がいねーですからね」なんて言われたが、銀時に隣に居ると湧いてくるこの気持ちは“友達”じゃないような気がしていた。

それは銀時も同じなんじゃないかと思ったりしていたら、銀時が手に持った団子の串を指先でぐるぐる回しながら、

「多串くんさぁ…………俺と付き合わね?」

そう言った顔は真っ赤で、“同じ”と思ったのは気のせいじゃなかったようだ。

それでも、普段だったら「何寝惚けたこと言ってんだ」なんて突っぱねてしまうところだが、今日は何せ日和が良い、機嫌が良い。

だから、まぁいいかなぁ、なんて思ってしまった。

「……ん」

「まじでかっ!!」

ぱーっと顔を輝かせる銀時に、土方も胸がほっこりとしてくる。

「多串くん、今日非番!? あ!!でも俺は仕事があったんだ!!チクショー、なんでこんな日に限ってぇぇぇ!!!」

嬉しさのあまりに早口にそう捲くし立てる銀時に、土方は小さく笑いながら、

「別な日でも良いだろうが。仕事頑張ってこい」

なんて優しく言えちゃったりするのだから、心が満たされるというのは凄いことだ。

銀時は「連絡するから!」と言って帰って行った。

一人残された土方は、残りの団子を食ってお茶を飲んだら……少し冷静になってきた。

それじゃなくても普段から疑い深い性格であるため、あまりにも良いこと尽くなことに猜疑心が湧いてくる。

そして、

『……アイツが自分から告白なんてしてくるか?』

という考えに辿り着いてしまった。

“同じ気持ち”なんじゃないかと感じたことはあっても、それを“付き合いたい”に直結したことはなく、お互いがお互いの気持ちを量りかねる……という感じだったのだ。

考え方が似ているからこそ、“自分から告白しよう”なんて思わないことを土方は知っている。

試行錯誤しているうちに閃き、

「もしかして、漫画でよくある“俺を落とせるか賭けて”るんじゃ!?」

という考えに至った。

そうなると賭けの相手は、

「……総悟あたりか……」

『土方さ〜ん、聞きやしたぜ、万事屋の旦那と付き合うことになったんですってねぇ』

「とか言い出してくるんじゃねぇか」

有り得そうな組み合わせに土方の疑いは増す。

沖田が一緒なら、今まで親しげに話しかけてくるようになったのすら、作戦だったんじゃないかと思えるのだ。

甘い団子を食べたはずなのに、口の中には苦い味が広がったまま、土方は外出を中断して屯所に引き返した。



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