原作設定(補完)
□その23
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#223
作成:2016/08/15
始めて触れた時から分かっていた。
コイツも俺が好きなんだって。望んで抱かれてくれたんだって。
だけど素直になるにはお互い強情すぎて、それを表面に出すことはしなかった。
一言聞けばよかっただけだ。
俺のこと好きか?
俺のことどう思ってんの?
それができないまま割り切って関係を続けてきたけれど、虚しさと寂しさがいつのまにか胸いっぱいになってつい言ってしまった。
「もうやめね?」
非番の連絡をくれた土方にそう切り出した。
土方にもずっと思うところがあったのかもしれない。
何が?と問い返されもせず、少し長い沈黙の後、
「分かった」
そう言っただけで電話は切れた。
あっさりしていたし、土方にはたぶん大した問題じゃないんだろうと思う。
アイツは仕事が好きで、真選組が大事で。
それは全然かまわないんだけど、きっと土方には“それだけがあればいい”のが少し苛立った。
言いたいことも言えなかったくせに、聞きたいことも聞けなかったくせに、情けない。
しばらくは出かけるのも億劫で家に篭もっていたけど、新八たちが、
「団子でも食ってきてきださい、邪魔だから」
と可愛くない言い方で、団子代を出してくれるという可愛いことをしてくれたので出かけた。
心配かけてねーでいい加減振り切らないと、と団子屋に来たら、元凶に遭遇してしまうという魔の悪さ。
「旦那、久し振りじゃねーですかぃ」
団子屋でのサボり仲間だった沖田くんはともかく、土方が同席しているのは珍しい。
振り切らないと、と思ったはずなのに顔を見ると辛い。
チラリと視線を向けただけで知らん振りの土方。
でも顔を見るだけで胸が熱くなる自分が痛い。
「うん、そうね。じゃあ、またね」
「え? 旦那?」
二人の関係を何も知らないであろう沖田くんに、変に思われないように平気な顔をする自信がなくてUターンをした。
それはそれで変に思われたようだが、俺は見かけによらず繊細なので同席は無理なのです。
情けない、と改めて思ったとき、後頭部にずどんと重い衝撃を受けて地面に突っ伏してしまった。
続いて地面にどさっと落ちてきたのは……お徳用マヨネーズ。
どうやら後頭部を襲ったのはソレらしいし、こんなものを投げそうなヤツは一人しかいなくて、さすがにコレはないだろうと、マヨネーズを掴んで起き上がり振り返った。
犯人がマヨネーズを投げつけた格好のまま荒く息をついている。
さすがの沖田君も、土方のいきなりの強行に驚いた顔をしていた。
「おまっ、何を……」
「うるせぇぇぇ!この腐れ天パァァァ!!!」
酷い目にあったのは俺なのに、怒られた。
だけどその顔は悔しそうに歪んで泣きそうで……。
あれ? 俺、もしかして間違ってた?
真選組が大事だから俺のと関係なんて大したことじゃない、んじゃなくて、真選組が大事なのに俺との関係を続けていてくれたのか?
俺に切り離されたことを悔しいと、悲しいと思ってくれてるってこと?
それが分かったら、やっぱり我慢できなくなりました。
「あ、あの、土方くん?」
「……んだよっ」
「すみませんでした。“やめる”って言ったの、やめにしてもらっていいですか?」
「…………」
眉間に深いシワを刻みながら睨むけれど、いやだとは言わない土方が可愛かったのに、
「何をやめにするですかぃ?」
邪魔が入りました。
俺たちの顔を食い入るように見つめながら、にやにや笑う沖田くん。
俺はそのまま続行しても良かったんだけど、さすがに土方のほうは我に返り恥ずかしくなってしまったようで、
「な、なんでもねぇぇ!!帰るぞっ!!」
俺の手からマヨネーズを奪い取ると、そう叫んで背中を向けて土方は歩き出した。
沖田くんはつまらなそうにその後に付いていく。
ああ、せっかくやり直せるチャンスだったのにぃぃ。
名残惜しそうに見ていたら、土方が振り向きもせず沖田に見えないように携帯をちらりと出して見せた。
後で電話する、というメッセージだと思う。
家で大人しく電話を待って、今度こそ言いたいこと聞きたいことを口にしてやろうと思いました。
おわり
最後まで一人称の予定じゃなかったので、なんか無理矢理になった気がしてます。
なんてことない話でした。マヨネーズをぶつけるシーンが書きたかっただけです(笑)