原作設定(補完)

□その22
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それから銀時は、仕事以外ほとんどひきこもり状態だった。

外に出ると土方に会うかもしれない。

土方の“好意を寄せているひたむきな熱い視線”は、嘘をついている銀時の後ろめたい心には眩しすぎるのだ。

それを言い訳に逃げ回っているだけ、というのも自覚している。

これでも今だかつて無いぐらい頭を使ってちゃんと考えているのだが名案が浮かばず、新八たちもこのネタに飽きて放置状態。

椅子に座って眉間にシワを寄せている銀時に、

「わんっ」

定春が小さな声で吠えてから玄関のほうに顔を向けた。

察した銀時がそっと玄関が見えるところまで行くと、ガラス扉の向こうに人影があった。

シルエットは洋服の男性。万事屋のドアチャイムを押すかどうか迷っているようだ。

呼び鈴を押そうとして止めたり、帰ろうとして戻ってきたり。悩める自分と同じ背格好ぐらいの男。

『……もしかして……』

10分ほど迷った後で、意を決したように呼び鈴が押される。

銀時は玄関に向かった。

顔を合わせづらいのなら居留守を使うという手もあったのだが、悩む姿を見た後ではそれも辛い。

「はーい……って、あれ、土方」

「お、おう」

銀時を見て緊張した固さを残しつつ、土方は手に持っていた紙袋を差し出してきた。

「こ、これ、仕事先で貰ったんだけど俺は甘いもの食わねーし、屯所に持ってっても少なくて喧嘩になるし、そしたらちょうどこの家の前を通ったから……てめーにやる」

一気にそう説明した土方。どうやら袋の中身は甘味らしい。

そんなことを言うために10分も悩んでいたのかと思うと、銀時も嬉しそうに笑ってやるしかなかった。

「まじでか。サンキューな」

「も、貰いもんだからな、別にいい……じゃあな……」

そして土方は照れくさそうに答えて帰ろうとするので、銀時は思わず呼び止めてしまう。

「あ、茶ぁぐらい飲んでいかね?」

「えっ……」

そんなことを言われると思っていなかったらしい土方は驚いた顔をしてから、

「…………あ、いや、その、仕事がまだ残ってるから、今日は遠慮しとくっ」

本当に仕事があるのか、心の準備ができていなかったのか、そう言ってそそくさと帰って行った。

銀時の心はいろんな感情が入り混じって複雑だった。




それから同じように甘味を持って万事屋を訪れる土方に、銀時も同じようにお茶に誘う。

「……じゃあ、一杯だけ……」

そう答えてくれたのは4度目の訪問のときだった。

成り行き上、何度か家の中に入ったことはあるくせに、初めての家に来るみたいに緊張しているようだ。

ソファに姿勢良く座っている土方の前に、淹れたてのお茶を出す。

「熱い茶ぁでホントに良かったのか? ……つっても、冷たいモンはいちご牛乳とビールぐらいしかねーんだけど……」

今日は曇っていていくぶん涼しいとはいえ、真夏なのだからもうちょっと気のきいたものを用意しておけばよかったと思う銀時に、

「いや、いい。ありがとう」

土方は小さく笑ってそう答え、お茶を一口飲んでから意外そうな顔をした。

「……美味い……良いお茶の葉使ってんのか?」

「んなわけねーでしょーが。お徳用の安っすいやつだよ」

「……へえ……」

もう一口飲んで、やっぱり納得できないという顔で、

「淹れ方が違うのかな」

そう言われたので、銀時も察した。

「ああ、そうかもな。ガキのころに茶ぁの淹れ方は仕込まれたんだ」

大昔に教わった淹れ方を今でも無意識にやってしまっていることに、銀時は小さく笑う。

「なんかコツがあるのか?」

「まあ蒸らす時間とか淹れ方とか……あと、心を込めろってベタな程度な」

何気にそう答えただけだったのに、土方は笑った。

自分のために心を込めて淹れてくれた、というのが嬉しかったらしい。

「…うん……美味いよ」

大事そうにお茶を一杯飲んで帰っていった土方に、銀時はますます複雑な気持ちになる。



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