原作設定(補完)
□その22
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#216
作成:2016/07/29
真選組屯所。
敷地内を見回る隊士が居るため、静まり返った……とまではいかないが、何事もなく割と静かな夜。
デスクワークを終えてようやく布団に入り、眠りかけた土方は薄く目を開ける。
庭側の廊下を抜き足で歩いてくる人の気配に、布団から出ずに脇に置いた刀をそっと手に取り布団の中へ引き入れ握り締めた。
真夜中に副長室にこっそり近付いてくる者が隊士の中には居ないし、たとえ居たとしてもそれは殺しても良いだろう、なんて物騒なことを考えていた土方だったが、そーっと開いた障子の向こうから、
「ひっじかったくーん」
という聞き覚えのある……すごくあるマヌケな声を聞いて、小さく溜め息をつきつつ刀から手を離す。
声の主は返事もしてないのにそのまま部屋に入ってきて、布団の上に倒れ込むと横向きに寝ていた土方を後ろからぎゅーっと抱き締めてきた。
「酔っ払っちゃったんで泊めて下さい」
言われなくても近づかれた途端に激しく香る酒臭と、非常識な訪問の仕方に、尋常じゃないぐらい酔っているのは分かった。
どこで飲んでたのかは知らないが、銀時の行きそうな店からなら屯所に来るより万事屋に帰ったほうが近い。
なのにこうしてやってきた理由を、土方が一番良く知っている。
デートの約束をドタキャンすること連続5回。
さすがにそろそろ怒るか?と思っていたのに、銀時は仕方ないと許してくれた。
それはそれで寂しかったのだが、無理してくれていたことが今回証明されたのだ。
自棄酒のあとに屯所に押しかけてくるほど会いたいと思ってくれていた、のでは怒れない。
土方は嬉しいのをごまかすように深い溜め息をついて聞いた。
「ここまでこっそり来たのか?」
「ん? 中に入ってからはね。さすがに敷地内に忍び込むはマズイかと思ってさ、門番の人にちゃんとお伺いしたらですね、“副長の恋人ですね”って入れてくれました」
銀時と土方のことは屯所内でも公然の秘密……つまりは公認になっているのだが、真夜中に土方の確認もとらずに中に入れるとは。
明日の朝には切腹させてやる(冗談)と思っていると、
「ふふ。恋人だってさ」
銀時が思い出し笑いしながらそう言うが、その言葉に“嬉しい”以外の微妙なニュアンスがあったような感じがした。
「……不満なのかよ」
「俺みてーな得体の知れない奴をあっさり信用しちゃうなんて、おたくの教育甘いんじゃないの」
いつもは“善良な市民”だとか“しがない侍”だとか言ってるくせに、自分の得体の知れなさをアピールするなんて、一人で自棄酒を飲んでいる間にどんどんネガティブ思考に走ってしまったようだ。
となれば、原因は自分なので土方にしてやれることは一つ。
布団の中でもぞもぞと身体の向きを返ると銀時と向かい合わせになる。
そして寂しげに見える目を見つめながら、
「……得体が知れなくてもお前がどんな奴かはみんな知ってんだよ」
「……」
「だから余計なことなんて考えずにてめーのやりたいようにやってろコラァ」
そう言って額を握りこぶしの尖ったとこでゴスッと殴ってやった。
酒のせいでさほどダメージはなかったのか瞑った目を額を擦りながら開けたときには、銀時の表情はいつものだらしない顔に戻っていた。
「……やりたいようにやらせてくれないのはどこのどちら様ですかコノヤロー」
「真選組の副長様だっ」
なぜか偉そうに答えた土方に、
「……当たり」
銀時は嬉しそうに笑って抱きつきながら、眠そうに目を閉じる。気が晴れたのか眠くなってきたらしい。
もう布団をかけなくても風邪を引くような季節じゃないな、と土方もそのまま目を閉じた。
おまけ
もぞもぞ さわさわ
「……それ以上触ったら、殺すぞ」
「嘘付きぃぃ、やりたいようにやれって言ったのは土方くんだろーがぁぁ」
おわり
ふぅ、また昔のネタが解消できて良かった。
思っていたのとちょーっと違う内容になった気がするけど、なにせ大昔のネタなので……
一年前と考えてることはほとんど変わらない私です(笑)