原作設定(補完)
□その22
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#220
作成:2016/08/04
かぶき町、“スマイル”に面した脇道でコソコソと身を寄せる4つの影。
「……マジでやるの?」
「往生際が悪いわよ、銀さん」
「さっさと行くネ」
気乗りしない顔で確認した銀時を、お妙と神楽が急かす。
この二人がタッグを組んでしまうと誰にも勝てないため、新八も苦笑いを浮かべるばかり。
昨晩は“スマイル”の店内の改装作業をお妙のツテで引き受けた万事屋だったが、仕事終わりに軽く一杯……のはずがドンチャン騒ぎになってしまい、それは“賭け宇野”にまで発展してしまった。
子供二人を含む“賭け”だったので現金ではなく、1位からビリへの恥ずかしい命令、という罰ゲーム的なものを賭けた。
そして1位のお妙からビリの銀時に下された命令というのが、
「……この道を最初に歩いて来た人に愛の告白……って、いまどき無くね?」
「告白だけじゃダメですよ。ちゃんとお付き合いもお願いしてくださいね」
ということで、早朝の道を歩いてくる人の気配を待って潜んでいたのである。
「かぶき町をこんな朝早くに歩いている人間なんて、お水のおねーちゃんばっかりだろうが。シャレにならなかったらどーすんですか」
「大丈夫ですよ。相手が銀さんだと分かったら受けてくれる人なんていません」
「銀ちゃんのマダオっぷりはみんな承知ネ」
「何ソレ。“フラレ男”のレッテルを貼るだけの罰ゲームですかコノヤロー!だいたいなぁ……」
反論しようとした銀時だったが、道路の様子を伺っていた新八が小声で呼んだ。
「誰が来ましたよっ」
「……ホントにやるのぉぉ?」
「いいから、さっさと行ってこいやっ!」
無駄な抵抗で渋る銀時を、お妙は容赦なく道路へ向かって蹴飛ばした。
足を縺れさせながらも倒れるのを踏みとどまった銀時は、急に姿を見せた銀時に驚いて足を止めた人影に向かい、やけくそ気味に叫ぶ。
「好きですっ!!俺と付き合ってくださいっ!!」
言い切ってから顔を上げ、銀時は凍りついた。脇道から覗いていた三人も「あ」と口を開ける。
そこに立っていたのは真選組副長、土方十四郎だった。
『なんでお前ぇぇぇぇぇ!!?』
隊服を着ているということは仕事中なのかもしれないが、煙草を咥えて眉間にシワを寄せたチンピラ風情漂う姿に、銀時は青ざめる。
よりにもよって土方十四郎。
銀時とは犬猿の仲で、顔を見れば喧嘩になっていた土方にこんな姿を見られるとは。
「早朝から頭沸いてんのか? わいせつ物陳列罪で逮捕すんぞ」
銀時の内心のデリケートな部分を抉るような冷たい声や、
「……………………はぁ……」
無言+深い溜め息が余計に辛い、などを想像してしまい、ぐっと身構えたのだったが、土方はモジモジっとしながら頬を赤らめ、
「……分かった。付き合ってやる……」
思いも寄らぬ言葉を返してきた。
『…………えええええぇぇぇぇ!!?』
動揺を隠し切れない銀時は声にならない叫び声を上げ、全身からドッと汗が流れ落ちる。
別な意味で内心のデリケートな部分を抉られた気分だったが、土方は、
「あ、近藤さん探してんだけど見なかったか?」
なんて普通に聞いてくるので、銀時も普通に、
「…見てません」
と返してしまった。
「そうか」
小さく溜め息をついてそう答えた土方は、チラッと改めて銀時の顔を見てモジモジすると、
「…………じゃあ、またな」
そう言って来た道を引き返して行ってしまった。
「…………えええええぇぇぇぇ!!?」
驚きの叫び声が今度こそ、しーんと静まり返った早朝のかぶき町に響き渡るのであった。
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