原作設定(補完)
□その22
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#218
作成:2016/08/01
携帯を手に取るのも、通話ボタンを押すのにも、土方らしくなく何度も躊躇った。
さらっと言って謝ればいいだけなのに、さすがに連続5回ともなると罪悪感がある。
深い溜め息をついて通話ボタンを押したら2回のコールで相手が出た。
“はい、万事屋銀ちゃん”
「……俺だ」
“土方っ”
銀時の嬉しそうな声が余計に罪悪感を煽るが、それでも言わなくちゃいけないことは同じだ。
「悪い…今日の約束もダメになった」
スパッと言ってみたがさすがに今日は怒られるだろうと思っていた。
連続5回ドタキャンの上に、前回のドタキャンから一ヶ月も経っているのだから、いくらなんでも怒るだろう、と。
しかし銀時は、
“…………そっか、分かった”
ガッカリしたような長い間を開けてはいたが、あっさりと承諾してくれた。
「……悪い」
“仕方ねーよ、仕事だしな。頑張りすぎんなよ”
「…ああ……じゃあ、また電話するから」
“おう。じゃあ、またな”
怒るどころか気づかってくれた銀時にホッとしながら電話を切ったものの、だんだん不安になってきた。
『……あっさりしすぎじゃないか?』
悪いのは完全に自分のほうだと分かっているのに、人というのは勝手なものである。
付き合い始めたばかりのころから仕事柄ドタキャンは多かったが、あの頃はもっと怒ったり拗ねたりしてくれていた。
怒ったからといって改められるものでもないので、銀時のほうも諦めたのかもしれない。
『……諦めたのならいいけど…………飽きられたんだとしたら!?』
そんな考えが浮かんで、土方の中にようやく危機感が生まれた。
銀時がめっちゃ自分を好きだから、真選組の仕事柄仕方がないことだから、ある意味そう甘えて開き直ってきたのだが、それはいつまでも許容されることなのだろうか。
面倒で口うるさくて優しくも可愛くもなく、会いたいときに会えもしない者を、いつまでも恋人と思ってくれるのだろうか。
『……もしかして他に遊ぶ相手でもできたのかもしれねぇ……』
それが本気か浮気かは分からない。だけどその後ろめたさから、あんな風に優しげだったのかもしれない。
このときポツンと心に湧いた不安は、土方の罪悪感を栄養に急成長を遂げた。
わずか3日の間に、仕事で失敗するわ、刺客(沖田)の攻撃にボロボロにされるわ、近藤に余計な心配をかけるわ。
精神的にも肉体的にも疲労困憊の土方は、4日目に万事屋の玄関前に立っていた。
『はっきり聞けばいいだけだろ。こんなの俺らしくねぇ』
そう気合いを入れて訪ねてきたのだが、
「すみません、銀さんは仕事で留守です」
だった。
どうせ仕事もなくて家に居るだろうとアポなしで来てみれば肩透かしを食らったが、新八も神楽も置いて一人で行ったらしいので、
「……本当に仕事か?」
ついそんなことを聞いてしまった。
「はい。こんな暑い日に屋根の修繕なんて手伝いたくねーとゴネルところを棟梁に引きずられて行ったんで…………あの、土方さん?」
新八はそう教えてくれた後に、心配そうな表情を浮かべた。
土方が不安そうだったりホッと安心したようだったり、そしてそんな様子を隠せずにいることが気になったらしい。
新八がそう思っていることに、土方も気付いて躊躇う。
本当はこんなこと新八たちに聞くべきじゃないのだが、一番近くで銀時を見ている彼らだからこそ何か知っているかもしれない。
色々限界だった土方は、ついつい子供相手に相談してしまった。
「え? 銀さんが浮気、ですか?」
家の中に通された後に土方がズバリと問いかけたら、新八に困ったような顔で復唱されてしまい、今更ながらに恥ずかしくなってきた。
ずっと剣一筋で色恋事には不器用が故だったのだが、恋人の浮気を心配して周りの人に探りを入れるなんて情けない。
無かったことにして逃げ帰りたかったのだが、新八は答えてくれた。
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