原作設定(補完)

□その22
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団子屋の軒先をこっそり覗いて、銀時は深い溜め息をつく。

実はこの二週間の間にも何度か来てみてはいた。

もしかしてあの日は機嫌が悪かっただけで、また会ったらいつものように渋い顔をしながら団子を奢ってくれるんじゃないか。

なんて淡い期待をしていたのだが一度も現われず、新八と神楽の意見が当確濃厚になってきた。

『やっぱり嫌われてたんかぃ』

フラフラとした足取りで団子屋へ行き、注文した団子を肩を落としたままもっさもっさと食べていると、聞きたい声じゃない声で呼ばれる。

「あれ、旦那、元気ねーですね」

団子屋の店内から出てきたのは両手に袋を持った山崎だった。

普段ならモブ的キャラの山崎に悪態をついているところだが、そんな元気は無い。

「……お使いですか……」

「あ、はい。副長に“食いたくなった”からって頼まれて、会議のお茶請けを買いに」

山崎は普通に答えただけだったが、銀時にはそれはトドメに等しい言葉だった。

甘い物が苦手らしい土方がこの店の団子だけは好きだと言ってよく食べていた。

だからこそ銀時も通っていたのだが、自分で店には来ず山崎に頼むということは、銀時にばったり遭遇すらしたくないからだろう。

ずずーーんと沈み込む銀時に、山崎のほうが焦ってしまう。

「え?旦那?どーしたんですか?」

「……いいの、ほっといて。この世の終わりが見えただけだから」

「ええ!?俺のせーですか!?何か悪いこと言いました!?」

このまま帰ってしまおうかと思ったのだが、この期に及んで土方のことが気になる自分が悲しい。

「……おたくの副長さん……元気にしてる?」

「え?はい、まあ。機嫌はずっと悪いですけど」

やっぱり怒っているようだ、と銀時が落ち込んだのを見て山崎は何か察したらしい。

「あ、原因は旦那ですか。喧嘩でもしたんですか?」

「……しねーよ、喧嘩なんて。告ってフラれただけだし。つーか、なんでフッたほうが怒ってんですか。怒りたいのはこっちじゃね?」

「ええぇぇぇぇ!?副長が旦那をフッた!?そんなまさか……」

「まさかもなにも、気持ち悪い、言われたからね。酷くね?」

「……いやー、フルにしたってそんなことを言う人じゃ……っていうか、とんでもない告白したんじゃないでしょうね。“一発やろう”的な」

「言うかぁぁぁ!!!てめーこそ俺をどんな人だと思ってんですか!」

どうやら銀時が告白したというのは間違いなさそうで、土方の機嫌がずっと悪いのも確かで、“そんなはずない”ことも承知している山崎。

いろいろ引っかかる中で、もう一人様子がおかしい人物を思い出す。

「旦那っ!! 旦那が副長を好きだって、みんな気付いてるんですか!?」

「んな恥ずかしいこと気付かせるかよ…………あー、でもおたくのドS王子には、気付いてる風な事を言われたな」

団子屋で土方が来るのを待ち伏せしていると「今日は土方さんは来ないですぜぃ」とか、居酒屋で待ち伏せしていると「土方さんばっかりじゃなくてたまには俺とも飲んでくだせぃ」とか、町で偶然土方に会えて喜んでいるときに「あんな仏頂面眺めて嬉しいんですかぃ」とか言われたりした。

「それだっ!!」

「……どれ?」

「副長が機嫌悪くなったころからずっと沖田隊長の機嫌が良いんです!きっと旦那とのことで何か言ったに違いな……あ……」

山崎が最後まで言う前に、銀時がばびゅんと屯所の方向に向かって走って行った。

その後ろ姿を見送って、

「やれやれ。これで副長の機嫌も直れば屯所も過ごしやすくなるかな」

と、ここ二週間の、ギスギスした空気の屯所を思い出して溜め息をつく山崎だった。




吸い殻で山盛りの灰皿に、さらに吸っていた煙草をねじ込みながら土方は眉間に深いシワを刻んでいた。

「チッ……山崎のヤロー、遅いじゃねーか。切腹さすぞコラァ」

煙草を吸っても周りに当り散らしてもイライラが取れないため、甘い物でも食べてみようと団子を買いに行かせたのだ。

この二週間、頭の中をぐるぐる回っているのは、憎たらしい顔で笑う沖田と銀時だった。

気分が晴れないのは“言いたいことをすべて言ってないから”だと分かっている。怒ってもキレても悲しみは拭えない。

次の煙草に火を点けようとしたとき、廊下をドタドタと走ってくる足音が聞えた。

山崎が急いで帰ってきたのかと思いきや、副長室の襖をばーんと開けてそこに立っていたのは銀時だった。



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