原作設定(補完)
□その21
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それから1週間、あれは夢だったんじゃないかと思えるぐらいいつも通りの毎日だった。
銀時がぷらぷらしてるときにたまたま土方に遭遇することはめったにないため、顔も見ず話もしないまま過ぎていた。
だが、銀時がデスクの椅子に座ってジャンプを読んでいると、買い物から帰ってきた新八が言う。
「さっき山崎さんに会ったんですけど、今日、土方さん非番らしいですよ」
「ふーん」
興味なさそうな返事をする銀時に、神楽がぐいっと顔を寄せた。
「マヨラをデートに誘わないアルか?」
「はあ?なんで俺が多串くんを………ハッ!」
言いかけて“そうしなければいけない理由”と、ニヤニヤ笑う新八と神楽に気付いた。
二人は“付き合ってるカップルをからかうため”に笑っているわけではなく、“ボロを出したらホテルディナーに行けるのため”に笑っているのだ。
土方が言っていたように、確かに“アイツラの思い通りに奢る”のは悔しい。
「あー、そうね、多串くんとデートね。そんじゃ、真選組に電話でもしてみよっかなぁ」
受話器を取りながらそう明るく言ってはいるが、適当な番号を押して嘘会話をするつもりだった。
が、
「あ、山崎さんから土方さんの携帯番号教えてもらったんですよ」
新八がそう言って、銀時に受話器を握らせたままメモしてきた携帯場番号を押してしまう。
「……さんきゅ〜……」
内心舌打ちしながら銀時は受話器を耳に当て、あとは土方が電話に出ないことを祈ったのだが数回のコールの後、
「はい、土方だ」
あいにく出てしまった。
「…俺だけど…」
「どこの俺だ」
「……銀さんですよ〜」
「…………ああ」
土方からも気のない声が返ってくるが、銀時は新八たちに見張られているので明るい声を出すしかない。
「おまっ、今日非番らしいじゃないの。仕方ねーからデートしてやりますよ」
「はあ!?なんで俺がてめーと………あー、そうね、デートね」
どうやら土方の側にも誰か居るらしく、嫌そうな声から急に親しげな声に変わった。
「忙しいなら無理にとは言わねーけど……」
「映画でも見ようかと思ってたところだから付き合え」
「あ?」
誘う前に誘われてしまった。待ち合わせの時間と場所を告げられて、返事をしたら電話は切れた。
『ええぇぇぇ!?』と思いながらも、新八と神楽が見ているので銀時は楽しそうな顔をして立ち上がる。
「それじゃ、銀さんは多串くんとデートしてくるから」
「いってらしゃ〜い」
二人に見送られて出てきたはいいけれど、付き合ってるのは“フリ”なのだから本当に待ち合わせる必要はない。
行かなくてもいいかなと思いつつ、もしも待っていたらと考えてしまったのだ。
渋々重い足取りで待ち合わせ場所まで行くと、土方は私服で煙草をふかしながら待っていた。
銀時に気が付いて眉間にシワを寄せる。
「おせーぞ」
「……あのさぁ、“フリ”なんだから本当に待ち合わせしなくてもよくね?」
「……ああ……そういえばそうだな」
一瞬だけ寂しそうな顔をしたような気がしたが気のせいだろうと思い、帰ろうとしたところを呼び止められた。
「そんじゃ……」
「てめーも観るか?」
「は?」
「せっかく来たんだし奢ってやらねーこともねーよ」
つーんとそっぽを向きながらそう言った土方に、銀時は以前沖田と話したことを思い出した。
“どうせ非番には屯所で仕事をするか、一人で映画でも見るしかねー寂しい野郎なんでさぁ”
寂しいなんて土方には似合わない言葉だと思ったのだが、こうして誘われたということは当たらずとも遠からずといったところかもしれない。
「……そうだなぁ、せっかく来たんだし奢ってくれるっていうなら付き合ってやらねーこともねーな」
回りくどく了承したら、とても誘ったほうとは思えない嫌そうな表情をされた。
初めてみた土方の“らしくない姿”が、ちょっと面白いなと思う銀時だった。
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