原作設定(補完)
□その21
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緊張しながら酌をしたが、いつまでも緊張しているわけにはいかなかった。
銀時が“爆破の銀次郎”なのか見極めて、近藤たちに突入の合図を出さなければならないのだから。
『コイツが銀次郎だったら……』
そう改めて考えると、それが思いのほかショックだった自分がいる。
出会いは最悪、再会はもっと最悪。
顔を合わせれば喧嘩ばかりしていた銀時に対して心を許し始めていたのは、最近ちょくちょく居酒屋で一緒になることがあったからだ。
銀時も酒が入っているせいか上機嫌で笑っていて、そんな銀時と酒を飲むのは悪くないと思うようになっていた。
だけど銀時が銀次郎なら、そ知らぬ顔で真選組と……土方と係わり合いになるのは裏があるからじゃないか。
“テロリストとか関係ない”という素振りで、新八たちも自分たちも騙してきたんじゃないか。
そんなことが平然とした顔でできる男じゃないと思っていたから、余計にショックなんだろうと土方は思った。
そんなことを考えていたせいで暗い表情になっていたのかもしれない。
「緊張してんの?別にやらしいことはしねーよ、仕事中だから」
銀時にそう言われて、土方の胸はざわついた。
こんな時間に何の仕事だというのだろう。もしかして本当にコイツが銀次郎で爆弾の受け渡しをこの店で行う気なのかもしれない。
着物の裾に隠したボタンを押せば近藤たちが静かに店を取り囲み、捕まれば今度こそ厳しい追及を受けることになる。
今までだったら躊躇なくボタンを押せたはずだ。なのに……。
「だから安心してくんね? 俺ぁ、笑って酌して欲しいんだよ」
銀時に優しげな声でそう言われ、一緒に酒を飲んだあの時間を思い出して余計にボタンが押せなくなった。
楽しかったのに、嬉しかったのに、もっと一緒にいたいと思ったのに。
そんな切なさを抱えていたせいか、リクエストに答えて笑ったつもりだったのに、銀時の目にはそう映らなかったらしい。
杯を置き、土方の手から徳利を取ってそれも置きながら、
「やっぱり気が変わった」
銀時はそう呟いて土方の腕を掴むと、酒の席のすぐ横に敷かれた布団の上にゴロリと転がした。
「!!?」
「トシ子ちゃん可愛いから、やっぱりヤルことヤッとこうかなぁ、と思います」
この期に及んで“やらしいことはしない”という言葉を信じた自分が馬鹿だったと、土方は思った。
銀時はいつだって嘘ばっかりで、調子の良いことを言い、のらりくらりと都合の悪いことをかわしてきていたのに。
土方の中の寂しさが一気に怒りに変わって、ボタンを押してやろうと思ったのに押し倒された拍子に着物の裾から外れてしまったらしい。
銀時に覆いかぶさられ、首筋に熱い息が当たる。
ぎゅっと目を閉じながら必死にボタンを探す土方の耳元に、酒の匂いを含んだ囁きが聞えた。
「どこまで我慢すんの、土方くん」
「!!!!?」
目を見開くと、そこにはにぃぃぃっと笑って自分を見下ろしている銀時が居た。
『バ、バ、バレてたぁぁぁぁぁ!!!』
と内心で叫びながらも、誤魔化そうとしたのは仕事柄の条件反射だったかもしれない。
「……だ、誰ですか、それ。何のことですか、それ」
「シラ切んの? 銀さんの股間センサーが土方くんを間違えるわけないですぅ」
「壊れてるんじゃないですか」
「よっしゃ、そんじゃあ、壊れてねーか試してやる」
頑張る土方に、銀時は嬉しそうにそう言って帯に手をかけたので、
「ぎゃぁぁぁ!!なにすんだこの腐れ天パァァァァ!!!!」
今度こそ素に戻って右ストレートをブチかましてしまったが、それも読まれていたのか銀時はひらりとかわしてしまう。
もう誤魔化せなかった。
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