原作設定(補完)
□その21
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「おまっ、何しに来やがったぁぁぁ!!」
「酷いでござるぅ、泊まりに来いって言ったのは坂田氏のほうなのにぃ」
拗ねるように口を尖らすトッシーには土方の記憶がちゃんと残っていて、土方と銀時が付き合ってるということを面白がっているようで、よく銀時に対して彼なりの“可愛いポーズ”を取ってみせた。
わざとだと分かっていても、土方らしくない斬新な素振りに銀時は怒れなくなるのだった。
「ぐっ……だいたいお前……」
「立ち話もなんだから上がらせてもらうでござる」
トッシーは楽しそうに銀時の脇をすり抜け、勝手に家に上がって奥の部屋まで走って行った。
引きとめようとした手は虚しく宙を切る。
アレも土方なのには違いない。
違いないけど、
『なんでよりにもよって今日トッシーなんですかぁぁぁぁぁぁ!!!』
ドキドキワクワクの“始めてのお泊り”が台無しだ。
がっくりと項垂れて動けないでいる銀時に、奥からひょっこり顔を出したトッシーが、
「坂田氏、坂田氏ぃ、ご飯食べて良いでござるかっ!?」
嬉しそうにそう言うので慌てて部屋に駆け戻る。
「ダメに決まってんだろうがっ! お前のために作ったんじゃないですぅ!」
「……拙者だって土方十四郎でござる……お腹空いたなぁ……」
ぐぅぅと鳴る腹に手を当ててしょんぼりするトッシーに胸が痛んだ。
土方は絶対こんな表情をしないと分かっていても、この顔でそんな風にされると苦しくなる。
「ちょ……ちょっとだけだぞ……」
「いただきますでござるっ」
トッシーはパッと嬉しそうな顔をして、準備されていたお徳用マヨをモリモリかけて食べ始めた。
「おいしいでござるっ、坂田氏っ、すごいでござるっ」
それは土方に言って欲しくて作ったものだけれど、可愛い顔で喜んで貰えるのは悪くない気分だった。
“ちょっとだけ”と言ったのに遠慮なく食べているトッシーを見ながら銀時は考えた。
どうしてトッシーが出てきてしまったのか。
妖刀の呪いで土方の中に巣食うヘタレたオタクのトッシーは、気まぐれで土方と入れ替わりオタクライフを満喫していた。
大概はトッシーの気分で入れ替わるのだが、土方が要因で入れ替わってしまうことがたびたびあった。
それは、激務続きで限界まで働いた後にぷっつり切れたときと、問題児だらけの真選組で度重なるストレスにネガティブのどん底に達したときだ。
だが今回は、休みがちゃんと取れるか確認した電話でも忙しくないと言っていたし、となると、
『ストレス……もしかして、お泊りが重荷だったのか!? ホントは俺とイチャイチャしたくなかったんですかっ!?』
悲しい想像をして床に四つん這いに手足をついて絶望する銀時に、トッシーがモグモグ口を動かしながら言った。
「違うでござる」
「……あ?……」
「仕事が忙しかっただけでござるよ」
銀時の心が読めた……というより、あまりの落胆振りに簡単に想像がついただけだろうが、トッシーは説明してくれる。
「……だけど暇だって……」
「嘘でござる。ここ数日の警備出動はいきなりねじ込まれたものだったけど、坂田氏をがっかりさせたくなくて大丈夫だって言ってたでござる」
テレビで真選組が連日警備をしているのを見て忙しいかと電話したのだったが、予定通りに進んでいるからちゃんと休めると言っていた。
「ほぼ徹夜で仕事して今日の昼すぎに終わったんでござるが、坂田氏のところに行く前に一眠りしたら熟睡しちゃって起きないんで、拙者が変わりに来てあげたでござるよっ」
“グッジョブ拙者!”というドヤ顔で親指を立てるトッシーに、憎たらしさを感じながら、土方らしいオチに溜め息をつく。
あまりにも銀時が喜んだものだから、ダメになったとは言えなかったのかもしれない。
申し訳なさそうな顔をする銀時に、トッシーは更に言った。
「坂田氏だけのせいじゃないでござる。十四郎も楽しみにしてて、手帳に約束の時間も書いてあったし、書類整理もぼんやりして何度も書き直したりしてたでござる」
“楽しみにしていた”は想像しにくいが、ウキウキしている自分に恥ずかしくなったり、失敗して落ち込んだりしている姿は想像できる。
そこまで喜んでいてくれたことは、トッシーにバラされでもしない限り分からなかったことだ。
ほんのちょっとトッシーに感謝した銀時だったが、
「ふぅぅぅ、ご馳走様でござるっ」
そう言ったトッシーの目の前に並んでいた、銀時が腕によりをかけた料理の皿が空っぽになっていた。
いつの間にか“土方のため”に作った彼の好物を全部食べられてしまい、
「なにしてくれちゃってんですかコノヤロォォォォォ!!!」
マジギレする銀時だった。
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