原作設定(補完)
□その21
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顔を合わせた瞬間に、彼らが何か事情を知っているのだということが分かった。
ひと月前まで銀時とのことを興味津々で応援しつつ面白がっていた二人が、土方に会っても下世話なツッコミをしてこない。
神楽のほうはしれっとした顔をしているが、新八のほうは申し訳ないような表情だ。
「……仕事か?」
「あ、はい」
心の片隅で、もしかして“仕事で忙しい”と言っていたのは本当なのかもしれない、と未練がましく思っていたのだが、それはないようだ。
子供たちだけ仕事に行かせて自分は何をしているのか、と腹立たしくて眉間にシワが寄る。
色々全部ひっくるめてガツンと言ってやろうかと銀時の所在を訊ねる前に、逆に神楽に聞かれた。
「マヨラ、銀ちゃんと何かあったアルか?」
「……な、何かって……なんだよ……」
咄嗟に頭に浮かんだのが“あの夜のこと”だったために思わずうろたえてしまう土方に、新八が説明してくれる。
「あの……銀さん、急に夜も昼も働き尽くめなんです……どうやらお金を貯めてるみたいなんですけど……たぶん、その……」
家賃滞納や給料未払いなんか気にも留めず、ダラダラ生活していた銀時が金を必要としている。それが“何”か、土方にもすぐに分かった。
そのために“付き合うフリ”をしていたのに、金を用意するということは、そちらを清算したいということ。
「……野郎はどこだ?」
「え、あ、家に居ます。僕たちでできる仕事だから休んでもらおうと思って…」
あんなマダオでもガキ共は心配して慕ってるんだな、と思うと余計に怒りが込み上げてくる。
『ガキ共の気持ちも俺の気持ちも踏みにじりやがって、あのクサレ天パアァァァァァ!!』
ドスドスと乱暴な足取りで万事屋に向かう土方を見送って、新八たちは笑う。
「これで仲直りできるかなぁ」
「あんなバカップル、放っておいても良かったアル」
万事屋の扉の前で右手を呼び鈴を押しながら、土方は懐でガサッと音を立てる紙に左手を添える。
会いたくなくて避けているというのなら誓約書などなかったことにしてやろうと、沖田から取り上げてきていた。
よくよく考えればこんな誓約書をでっちあげたせいで、振り回されたのは銀時の方だったろう。
「はいは〜い」
寝惚けたような疲れた声が家の中から聞えてきて、怒りでテンションを上げてきた土方はそれが沈静化していくのを感じた。
告白して拒否られるのが怖いとか、喧嘩しかしなくてもあんな関係が終わるのが嫌だとか、はっきりしない自分のせいでこんなことになったのだ。
扉を開けた銀時が、土方を見てぎょっとしているのが分かる。会いたくなかったという顔だ。
悲しくなりそうなのをぐっと我慢して土方は不機嫌なフリをした。
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