原作設定(補完)
□その21
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頭痛と体のあちこちに痛みが残る気だるい朝。
体を起こしながら、なんだかスースーするなと思っていたら、気まずいような顔をしてやっぱり裸の銀時と目が合った。
すぐに昨夜のことを思い出し、
『や……やっちまったぁぁぁぁぁ!!』
自己嫌悪でがっくりと項垂れる。
既成事実を作るなら、もっと銀時が自分を意識してくれて後に引けないような状況になってからと考えていたのに、雰囲気に流されてまんまと最後まで致してしまった。
「……あのぉ……」
「いい」
黙っている土方に痺れを切らした銀時が自分から言い出すのを遮る。「ヤッちゃってすみませんでした」とは言われたくなかった。
顔を見れば昨夜の口説き文句なんか全く覚えてないのも、後悔してるのも分かる。
幸い土方の気持ちまではバレていなさそうなので、今日はさっさと退散するのが良いと思った。
これで少しでも意識してくれればと思いながらも、これで銀時の気持ちが離れていく可能性もあると思い、
「…ホントに気にすんなよ…」
帰り際に念を押して万事屋を出た。
いまいち前向きになれない気分と体の痛みをおしながら屯所に戻った土方に、沖田がトドメを刺す。
「土方さ〜ん、朝帰りおめでとうございやす」
昨日は銀時と会っていたことを知った上でニヤニヤ笑う沖田に、土方は不機嫌そうに答えた。
「……そういうんじゃねぇ。酔ってあいつんとこに世話になっただけ……」
「へーえ。“だけ”にしてはお疲れの様子じゃねーですかぃ」
しれっと嘘をついてみたのだが、沖田はまったく信じていないようで余計に憎たらしい顔をされた。
当然嘘なのでそれ以上言い返すこともできず、そのまま土方は副長室に戻り畳の上にばったりと倒れ込む。
仕事の疲れた体の上にさらに別な疲れを加えてしまったので、しばらく動けそうにない。
しかし何もしないでいると考えるのは銀時のことばかり。
『……来週、ちゃんと来るのかアイツ……』
ああは言ったものの、気にして付き合いを無かったことにするならいい機会だ。
それを“宣誓書”を盾に再度引き伸ばすのは気が引ける……というか、したくない。悲しくなるだけだから。
1週間、仕事も手につかない状態でモヤモヤと過ごした土方は、いつもの居酒屋に銀時より先に到着した。
会うのは不安だったが自分から“気にするな”と言った手前、来ないわけにもいかず、銀時が居ないことにがっかりする。
電話はしなかったし、電話も来なかった。
いつものようにいつものメニューを頼んで、ちびちびつまみながら扉が開くたびにそちらを気にして数十分。
開いた扉に銀時の姿を見つけ、ぎゅーっと締め付けられていた胸が解放されて泣きたいぐらいにホッとした。
「遅くなってすみませんねぇ」
「先に始めてるぞ」
ホッとしたのを悟られないように素っ気なく言ってみたが、マヨネーズをかけ忘れるという大失態で緊張を見破られてしまう。
土方がずっと不安に思っていたことが杞憂だったように、銀時はいつも通りだった。
“気にするな”と言いつつも、先週の二の舞はヤバイだろうとお互いに酒をセーブしていたと思う。
なのに、店の前で別れて屯所に向かいながらも、何もないことが寂しい気がして後ろ髪を引かれるように振り返ったら、銀時と目が合って驚いてしまい逃げ出した。
『見てんじゃねぇ、コラァ!!』
本人に言うことができなかったので心の中で叫び、完全に見えなくなるところまで来てからへたりと座り込む。
酒の量は少なかったとはいえ、飲んだ直後に走ってしまうのは危険だ。
息を整えながらさっきまでの銀時を思い出す。
あんなことがあったのにいつも通りだったことや、むしろちょっと優しいぐらいだったこと。
全然嫌がってなくて、気にするかのように見送ってくれたこと。
本当に自分を意識してくれているのだろうか、一歩前に進むことを考えてくれているのだろうか。
そんなことを思って幸せだったその時間は、翌週には否定されることになった。
非番の日、「仕事で行けない」とキャンセルされたのも二週ぐらいはなんとも思わず、たまには真面目に働くんだなと感心もした。
が、三週目からはそれがおかしいと気付く。
昼間に団子屋やパチンコあたりでうろうろすることもない銀時に、避けられてるんだと思い始めた。
だけど気にしていない感じだったのになんで今更と聞くこともできないでモヤモヤしていた土方は、ひと月になるころ、銀時に会えないかと非番にかぶき町に出て来て新八たちに会う。
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