原作設定(補完)
□その21
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#205
作成:2016/07/07
土方十四郎はいつも不機嫌な顔を、更に不機嫌に歪めていた。
「ダメよ、そんな顔しちゃあ。笑って笑って〜」
キャッキャとはしゃぐ女性たちに、ひきつりながら笑ってみせたら、
「きゃぁぁ、トシぃ、可愛いぃぃぃ」
と野太い声を上げたのは、不気味な格好をした近藤だった。
だけどそれを笑うことはできない。土方も不気味な格好……化粧をしてカツラを被り女性ものの着物を着ているのだから。
「なんでこんなことに……」
「しょうがないでしょぉ、ずっと追っかけてた過激攘夷党の志士が、この店に出入りしてるって情報があったんだからぁ」
近藤がクネクネしながら説明してくれたが、そんなことは分かっている。
そして、捕獲のために店の女性たちを危険な目に合わせるわけにはいかない、と言い出したのが沖田だというのも分かっているのだ。
もちろん本当に女性たちの為を思っているからではない、ただ単に面白いからだろう(特に土方が)。
若いせいかナチュラルに女装が似合っている沖田と違い、三十に手が届きそうな土方は“可愛い”と言われても腑に落ちない。
「いくらなんでも騙せるわけねーだろ」
「大丈夫でさぁ。ここの個室は薄暗くなってるらしいんで、土方さん程度でも騙せまずぜぃ」
「……程度、かよ……」
「だよなっ!じゃあ、俺も頑張っちゃうわよぅ」
「……近藤さんは薄暗くても無理でさぁ」
「酷いっ!!」
はしゃぐ近藤たちに溜め息をつきながら、これも攘夷志士を捕まえるまでだと気合いを入れる。
「相手は“爆破の銀次郎”だ、油断はするなよ。これ以上の犠牲を出すわけにはいかねーんだ」
それは“爆弾を使ったテロには必ず係わっている”と言われるほどの相手だ。
なのに自らは派手な行動をせず、酒を飲むのも女を買うのも人目のつかない小さな店を選ぶほど慎重でもある。
この機会を逃したら、また大勢の犠牲が出るかもしれない。身内の誰かを亡くしてしまうともかぎらない。
そう思うからこそ、土方はこんな醜態に耐えていた。
それから、待つこと数時間。
時計の針が日付を越える直前に、店の店員が土方たちの待機する部屋にこそっと入ってきた。
「銀さん、いらっしゃいました」
緊張感が一気に高まる。
店の店員から、銀次郎が爆弾らしき物を所持している様子は無いと報告されても油断はできない。
捕縛するどころか、その姿さえも掴ませなかった危険人物をようやく確認できるかと思うと、土方は逸る気持ちを抑え、まずは一人で部屋に向かった。
この間に、店の周りを真選組が取り囲むことになっている。
部屋の前で落ち着くように深呼吸した。捕まえることができるのか……の前に、騙せるのかが不安だったがやるかない。
襖を開けて両手を着き頭を下げながら、始めて確認する“爆破の銀次郎”の姿は……
「い、いらっしゃいませ。トシ子と申します。よろしくおねが…い…しま…」
「は〜い、よろしくぅ」
死んだ魚のような目をしたフワフワ天パー“万事屋の銀時”だった。
『万事屋ぁぁぁぁぁぁ!!?』
驚きのあまり思わず素に戻って、「てめぇぇぇ、こんなところでなにしてんだコラァァァ!!」と怒鳴りつけてしまいそうになった。
それをぐっと留めたのは、銀時が“爆破の銀次郎”だという可能性がないわけじゃないからだ。
攘夷戦争に参加していて桂とも係わりがある得体の知れない男。その得体の知れなさは銀次郎と通じるものがある。
部屋は確かに薄暗かったが、見ず知らずの相手ならともかく、何度も顔を合わせたことのある銀時にこの姿が通用するだろうか。
そう思うときちんと顔を上げられず俯き加減のままの土方に、銀時が小さく笑った。
「新入りなの? 酌、して欲しいんだけどなぁ」
「は、はい」
店のお姉さんたちが“体格が良くてもすらっとして見える着こなし術と歩き方”とやらを御教授してくれたのだが、慣れないのと相手が銀時だということで隣に座るまでがぎこちなくなり、それは逆に新入りっぽく映ってくれたかもしれない。
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