原作設定(補完)

□その21
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#202

作成:2016/06/29




ずっと忙しかった土方が夕食を兼ねた飲みに誘ってくれたのに、銀時は浮かない顔をしていた。

電話をしたときには嬉しそうだったのに、と良い感じに酔っていた土方が首を傾げる。

「どうした? 全然飲んでねーじゃねーか」

「あ? そうでもないですぅ」

そう答えながらコップの日本酒をぐいっと飲む銀時だったが、飲んでも酔えていないのは確かだった。

銀時が変なのはいつものことかと、土方はかまわず久々の酒を味わうことにした。

そんな土方をちらりと見て、銀時は密かに溜め息をつく。酒の力を借りて言えないものかと思っていたのに、いくら飲んでも気分が良くならない。

素面で言うにはかなり恥ずかしいものがあるが、土方が完全に酔っ払わないうちに言うしかない。

「……あのさー……次の非番ていつ?」

「来週の金曜だな」

「……1週間以上あるじゃないですか。働きすぎじゃね?」

「仕方ねーだろ。近藤さんがあんなだし」

屯所を留守にしがちな局長のために非番を減らして働く土方に、『どんだけゴリラが好きなんだコノヤロー』と思うがこればかりは仕方ない。

近藤を慕ってその下で働くことを第一としていると知っていて好きになったのだし、それで良いと言う銀時だからこそ土方も銀時の気持ちに答えたくれた。

「で?」

「あ?」

「非番がどうしたんだ?」

「……あー……」

土方に問われて、銀時はテーブルに指で“の”の字を書きながら言い難そうに言った。

「その非番の、前の日? うちに泊まりに来ませんか?」

「…………」

それはベタではあるが“恋人同士の外泊のお誘い”というやつだ。

外泊のお誘いぐらいでモジモジしているいい年をした男というのはドン引きしかねないが、無理もなかった。

告白なんてまっとうなやりかたでお付き合いの始まった二人は、その期間が半年になろうとしているのに“まだ”だったのだ。

もちろんそうなりたいとずっと思っていたのだが、隙がない土方に誘うタイミングを計りかねているうちに半年が経過していた。

このままじゃいかんと一念発起しての“お誘い”は超ベタで、しかもなかなか返事のない土方にどんどん弱気になっていく。

沈黙に耐え切れず撤回しようとした銀時に、

「あ、無理だったら別にいいんだよ、うん、銀さん、まだまだ待てる……」

「分かった」

土方がそう答えたので、驚いてバッと顔を見る。

もしかして“意味”が通じてなかったのかと心配したが、正面を向いたままほんのり顔を赤らめている土方に、銀時の緊張もようやく解けた。

「まじでかっ。えっと、じゃあ、お前の好きなもん作るから夕飯の時間とかに出てこれるか?」

「ん」

土方が了承してくれたことで安心したのか、銀時はいつものように上機嫌で甘味を肴に酒を飲み始める。

最初の浮かない顔は緊張していたせいだったようだ。

土方はも、子供じゃないんからだいつか“そう”しないといけないのは分かっていたが、銀時がなかなか誘えずにいるのをいいことに引き伸ばしていたような気がする。

だけどこんな風に喜んでくれると、土方のほうの緊張も和らぐ気がした。




翌週の木曜日。

神楽と定春を新八に連れて帰ってもらい、この日のためにへそくりしたお金で急いで買い物に行き(前もって買っておくと神楽に食べられてしまうため)、土方の好きなものばかり作って用意万端。

もちろん、和室にお泊りの準備も万端だ。

昨日電話で大丈夫か確認もしたが、土方の仕事が不規則なのは承知の上なのでドタキャンは覚悟している。

が、約束の時間までウキウキソワソワ落ち着きなく過ごした銀時は、玄関チャイムの“ピ”の音で飛び出していく。

「いらっしゃい、ひじ……か……」

「坂田氏ぃ、おじゃまするでござるっ!」

そこに立っていたのは、いつもの独特のファッションに身を包んで風呂敷を抱える、

『ト、トッシィィィィィィィィィ!!?』

だった。



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