学園設定(補完)
□同級生−その2
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休憩時間や昼休み、キョロキョロと視線を巡らせても土方の姿がない。
数週間前から目が合わなくなったのは気付いていたが、友人たちと一緒にいる姿を見ることはできていたのに、ここ数日はそれもなかった。
遠くにゴリラっぽい土方の友人の姿を見つけたが、やっぱり隣に土方はおらず、
「……やっぱ嫌われたかなぁ……」
あの雨の日の切なさを思い出して呟くと、背後から声がかけられた。
「誰にですかぃ」
「!!?」
振り返るとそこには、土方とゴリラっぽい男と一緒にいることが多い童顔でいつも笑っている子が立っていた。
笑ってはいるけれど腹の中では何を考えているか分からなそうな顔をしていて、坂田は戸惑いながら返事をする。
「えっと……」
「沖田総悟でさぁ」
「沖田くん……誰って、何が?」
「土方さんなら学校に来てませんぜ」
ズバリと言われ、分かっていて聞いてきたのだから腹黒い確定だ。
「……あ、そう。聞いてないけどね。じゃ」
係わり合いにならないように坂田は逃走しようとしたのだが、気になることを言われてしまった。
「まあ、あと2、3日後には、永久に来ないようになりそーですけど」
しれっととんでもないことを言われ、坂田は思わず振り返ってしまう。
「何それ、どういうことぉぉ!?」
「何がですかぃ?」
「何って、永久に来ないとか…」
「誰がですかぃ?」
「いや、もういいから……土方くん、どうしたの?」
永遠に続きそうな不毛なやりとりを断ち切って、坂田が不安げに尋ねると沖田も素直に答える気になってくれたらしい。
「酷い風邪を引いたらしくてずっと学校を休んでるんでさぁ」
「風邪?」
「立ち上がるのもやっとらしくて電話どころか一言メールぐらいしか来ないって近藤さんが言ってやした」
近藤というのはあのゴリラっぽい男のことだろう。
「見舞いには行ってねーのか?」
「うつるから来るなって言われてるんでさぁ。そのへん頑固なんで押しかけても絶対入れてくれねーんです」
だけどそれじゃあ飯とか薬とかどうしてるんだろう、と坂田は一気に不安になった。
風邪を引いた理由だってきっとあの日濡れた所為なのだろうから、原因が自分にあるかと思うと余計に心配になってくる。
「……見舞いに行きやすか?」
「あ? だけど、会ってくれねーんじゃ……」
「俺らは絶対に来るなって言われてやすけど、旦那ならまだ言われてねーんで追い返しはしねーと思いますぜぃ」
「だ、旦那?」
言いながら沖田はノートに土方の家までの地図を簡単に書くと、それを破って坂田に寄越した。
土方と坂田の間に何かあったのかは知らないくせに、地図にはちゃんとラブホ前を通る近道で記入されていて、坂田は微妙な気持ちになる。
だけど行ってもいいのだろうか。あんな風に拒絶されるのは辛い。
躊躇う坂田に、沖田が背中を押してくれた。
「土産に飲みモンと“ベドロ3”のDVD借りて行ってくだせぇ」
「………飲み物はともかく……なんで“ペドロ3”?」
「TVで放送したやつを見逃したとかでがっかりしてたそうでさぁ」
そんなことを聞かされたら持っていってやりたくなってしまう。
会ってくれなくても部屋の前に置いていけば受け取ってくれるかもしれないと、
「……分かった。行ってみる……」
そう坂田が答えると沖田が一瞬にやーーーっと笑ったが、これからのことを考えてドキドキしている坂田は見ていなかった。
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