学園設定(補完)

□同級生−その2
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それからというもの、あの銀髪はやたらと土方の目につくようになった。

どうやら美術科と教育科は同じ校舎にあるようで、休憩時間や移動の間に自然と見つけてしまう。

あんな目立つ頭なのに今まで気に留めたことがなかったのは、美術科にはその芸術センスを自分で表現しようとするかのように派手な頭や格好の者が多かったからだと思う。

そんな中でも坂田の銀髪は天然なだけあって、一際目立っている気がした。

そして土方がそうやって坂田を見つけてしまうせいか、全然目立たない土方なのに坂田は気が付いて小さく手を振って笑いかけてくる。

「またね」と言いながらもちゃんと会って話をすることはなかったが、そんな風にほぼ毎日姿を見つけて挨拶をしてると、土方のほうも坂田と親しくなったような気がしてきた。

それでも、いつも同じメンバーで行動している土方とは違い坂田は違う顔ぶれが多く、“大勢いる顔見知りの1人”なのかもしれないと思うと自分から話かけることはできなかった。




昼休みの学生食堂。

前の授業が押して出遅れてしまった土方は、後から来る近藤たちの分も合わせて空席を探していた。

「土方くん」

名前を呼ばれて振り返ると、少し離れた場所から坂田がいつもの笑顔で手を振っている。

あれからひと月近くが経っていて、話すのは久し振りだと思いながらそちらに向かってみると、坂田は四人掛けのテーブルに1人で座っていた。

「空いてるよ。どうぞ」

そう言ってくれたが土方は躊躇ってしまう。今日は近藤と一緒に沖田と山崎も来るはずなので、空席3つでは足りないのだ。

「あ、でも…」

「待ち合わせだろ。俺、もうすぐ終わるから」

躊躇う土方に、坂田はちゃんと分かった上で声をかけてくれたらしく、座るように手で促してくれた。

坂田の食器は空で、手に持ってるいちご牛乳が最後らしい。

『また飲んでる。好きなのか、いちご牛乳』

なんて考えながら、土方は焼きそばと野菜系の小鉢をいろいろ乗せたトレーをテーブルに置き、隣に脇に抱えていた教科書を置いた。

それを見た坂田が聞いてくる。

「土方くん、何の先生になんの?」

「まだ決めてない」

「そんなもん?得意な教科とかにすんじゃねーの?」

「成績はどれも同じぐらいだったから。どれが自分に向いてるか……分かりやすく教えられるか探ってるとこ」

楽しく分かりやすく勉強を好きになってもらえるか。田舎の学校でのんびりはしていたけれど、自分が受けてきた教育を返せるような教師になりたかった。そして、できれば中学が高校の教師になり、部活動で剣道を教えてやりたいとも思う。

口には出さなかった土方の思いを見透かしたように、

「土方くん、真面目だなぁ。良い先生になりそうだよね」

嬉しそうに笑った坂田にそう言われ、恥ずかしいのを誤魔化すように土方も問い返す。

「お、お前は? 画家、とかになんの?」

美術科には“絵を描く”というイメージしかなかったが、それだけじゃないようだ。

「俺も決めてね。見掛けによらず割と手先が器用でさ、家具作ったり壁塗ったり岩削ったり試してるとこ」

どんな授業をやってるのか知らないが、確かに見かけは不器用そうなのにな、なんて失礼なことを考えながら土方も笑ってしまう。

すると坂田は一瞬……瞬く間ぐらいだけ辛そうな顔をした。

すぐにいつもの表情に戻ると、いちご牛乳の残りを一気に吸い込むように飲みきると、

「そんじゃ。またね、土方くん」

そう言って立ち上がり、食器の乗ったトレーを持ってテーブルを離れていった。

なんだろうと思ったら、土方からは見えない角度のところに近藤たちが立っていた。

紹介したことはないが土方といつも一緒に居る顔を覚えていて、宣言通りにテーブルを空けてくれたのだろう。

手先が器用かは分からないが、気配りとか機転などが良いのは分かった。

そして空いた席にやってきた近藤たちがおかしな顔をしているのも分かる。

真っ青な顔をしている近藤と、ニヤニヤと笑っている沖田と、土方と同じようにきょとんとしている山崎。

「?」

テーブルに付きながら、沖田が楽しそうに尋ねてくる。



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