学園設定(補完)
□同級生−その2
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スポーツドリンクのボタンを押して受け取ると礼を言うと、
「どーも」
「いえいえ」
男も自分の分を買い、“いちごオ・レ”を取り出しながら話かけてきた。
「ああ、そうだ。俺、坂田銀時。美術科の1年」
言いながら自動販売機近くのベンチに向かう。
飲み物を買ってもらっておいて「それじゃあ」とは立ち去りづらいし、暇だし喉も渇いてるし疲れてるし、土方もそれに着いて行きながら答える。
「俺は、土方……十四郎。教育科の1年だ」
「“とうしろう”ってどういう字書くの?」
名乗ると必ず聞かれるし、答えた後の質問も決まっていた。
「……“十四”に朗読の“朗”」
「14人兄弟?」
『ほらな。いまどきそんなベタな名前の付け方をする大家族がいるかっつーの』
だから昔は名前を言うのが嫌だったが、もう慣れたし初対面の人にまでわざわざ苛立つ必要も無い。
「違うけど、父親と爺さんにも漢数字が入ってた」
「そういう慣わし?」
「かもな。お前は?頭が銀色だから銀時か?」
言ってしまってから嫌味だったかな、と思ったが坂田は気にした様子もなくにっと笑う。
「だろうな。ベタな名前の付け方だろ」
ということはこの髪は染めてるわけじゃなくて地毛ということになる。
髪の色以外は見た目も名前も話し方も日本人っぽいのに……なんて考えていたら、じぃっと見つめられているのに気付いた。
だけど坂田が見ているのは自分じゃない、とすぐに分かった。
「……んなに似てるのか?」
「あ?」
「“おおぐしくん”とかいうヤツに」
「…んー…たぶん」
「たぶん?」
「会ったの子供のときなんだよねー。大きくなったらこんな感じだろうなぁ、って想像してたのがそのまんま目の前に現れてびっくりしちゃってさ」
つい色々聞き返したくなってしまう話だった。
いくつぐらいのとき?それから会ってねーの?なのにそんなに会いてーの?
だけどそれを聞くのは気が引けた。ほぼ初対面だし、自分は間違いなく“おおぐしくん”ではないので興味本位で聞くのも悪い気がしたからだ。
でも“あんな顔”をさせるぐらい会いたい人が居るというのは、見かけによらずロマンチックだと思った。
「…そんなに会いてーんだ…」
そう呟いてしまった土方に、別に聞きだそうとしたわけじゃないのに坂田は答えたくれたが、
「俺のさ、初恋の相手なんだよねー」
「!?」
思いがけない情報に土方はショックを受けた。
『初恋って……俺は女に間違われたのか!?そりゃあ近藤さんには“トシはイケメンで良いよなぁ”なんて言われるけど、それは近藤さんに比べたらっていう話であって、女に間違われるほどじゃあ……って“くん”って呼んでたな……やっぱり男?それとも幼少期にはありがちな男っぽい女ってことか!?』
ぐーるぐると土方が考えを暴走させていると、聞きなれない着メロの音が流れた。
どうやら坂田の携帯のようで、発信元の表示を確認してから立ち上がる。
「んじゃ、俺行くわ。またね、土方くん」
「…あ、コレ、ありがとうな…」
「どーいたしまして」
改めてきちんと飲み物の礼を言った土方に、坂田は嬉しそうに笑ってもふもふの髪を揺らしながら校舎のほうへ向かって行った。
『またな……って、もう友達扱いかよ』
昨日会ったときもタメ口で、今日も自分だったら人違いした相手を見つけてもスルーしてしまうのにわざわざ話しかけてきて、笑って親しげに別れる。
それは持ち前の性格なのだろうか。それとも自分が知り合いに似てるからなのか。
そんなことを考えながら飲みかけだったドリンクを飲んでいたらいつのまにか時間は昼近くになっていて、近藤と待ち合わせていることを思い出し慌てて食堂へ向かうのだった。
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