学園設定(補完)

□同級生−その2
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#26

作成:2016/04/29





向かってくる人を注意深く避けながら、土方十四郎は駅の構内をホーム目指して歩いていた。

この春から都会の大学に入学したばかりで田舎育ちの土方としては人の多さに慣れるだけでも一苦労だ。

おまけに大学のカリキュラムというやつは複雑で、親から出してもらった大事な進学費をムダにしないためにも良い選択をしたい。

そんなことを考えているから「トシは真面目だなぁ」と友人に言われてしまうが、それが性格だから仕方なかった。

考え事をしながら、電車からドッと降りてきた人たちが居なくなり空いた階段を上がろうとしたとき、

「多串くんっ!?」

と叫ぶ声が聞えたが、当然自分のことじゃないので気にせず行こうとした腕を、ぐいっと掴まれて引き戻される。

「!?」

驚いて振り返ったそこには、同じように驚いた顔をしたふわふわっとした銀髪の若い男が立っていた。

『あ?俺?』

どうやら“おおぐし”というヤツに間違われたんだとすぐ察した土方が、

「…違いますけど…」

そう答えると、男は我に返ったようにきょとんとした顔になる。

「…多串くん…じゃねーの?」

「……土方ですけど……」

名乗ったらようやく人違いだと分かったらしい男は、寂しそうな、がっかりしたような顔をした。

「……そっか……」

そんな顔をされたら自分のほうが悪いことをしたような気分になってくる。

が、躊躇う土方に気付いたのか男は笑って、

「悪ぃ、人違いみてーだ。ごめんな」

軽い口調でそう言って、駅の出口のほうへ向かって歩いて行った。

初対面なのにタメ口で、しかもあの派手な頭。

『都会ってすげーな』

なんて思ったりする田舎者の土方だった。




そんな風に出会った男と再会したのは大学の構内だった。

中高と剣道部に在籍し体を鍛えてきた土方は、大学に入って“なんでもありの運動部”サークルというのに入った。

そのとき集まったメンバーでそのとき決めたスポーツをみっちりとやるという面白い趣向のサークルで、慣れない生活と勉強で鈍った体を動かしたい土方は、空き時間ができるとそこへ行って思い切り汗をかいた。

「トシは次の授業なんだ?」

「休講だった。午後まで時間空くからプラプラしてる」

「じゃあ、昼は食堂で待ち合わせようぜ」

そう言って自分の授業のために校舎に向かう近藤を見送って、土方はグラウンドからベンチのある庭へ向かう。

今の時間は割りと人数が集まったのでサッカーの試合をやってグラウンドを駆け回り、汗をかいた分、喉がカラカラだ。

自動販売機を見つけ、どれを飲もうかと見ながらポケットに手を入れたが、財布がない。

パタパタと体のあちこちを叩いてみたところで、校舎内のロッカーに入れたままだったことを思い出した。

すっかり喉を潤す気になっていただけに、がっかりする土方の脇からにゅっと現われた腕が自販機にチャリンチャリンと小銭を入れる。

他の人が買うのを邪魔してしまったかと土方が振り返ると、そこには昨日の男が立っていて、昨日と同じように笑っていた。

「あ」

「昨日は驚かせてごめんな。お詫び。好きなのどーぞ」

つまり自販機に入れた金は自分のためか、と慌てて恐縮する土方だったが、

「え? いいよ、あんぐらいのことで……」

「財布ねーんだろ?」

どうやら財布を捜したりがっかりしたところまで見られていたらしい。

恥をかいたことだし喉も渇いてるし、

「……じゃあ……」

土方は遠慮しないで奢られることにした。



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